第43話 リングネーム

「ミナミのリングネームを決めた」


 唐突な大沢の宣言。


「SJWのリングネームは、みんな実名にするものだと思ってましたけど……」


 アキラ、サクラ、ツツジ、ワカバ、みんな本名だ。


「まあ、ミナミの場合は覆面ヒールデビューだからな。謎の新人という売出しをしたい」


 大沢は、やはり社長なりにいろいろ考えているようだ。


「わかりました。で、どんな名前ですか?」

「サザンだ」


 ミナミは息をのんだ。


「強そうだろ?」


 ミナミの額に冷汗が流れる。


「……ダサくないですか?」

「悪くないと思うぞ。謎の刺客、覆面ヒールの新人サザンだ」

「てか、ほぼ本名じゃないですか。全然謎の刺客になってないんですけど……」


 こんなリングネーム、ゼミの4人に一晩中笑われる将来しか想い浮かばない。


「まあ、もうこれでデビュー戦のポスターも発注したから、決定ということで」

「うそ?本当にサザンで決定しちゃったんですか?」


 ミナミはがくっと肩を落とす。


 ん?あれ?

 デビュー戦のポスター?


「ああ。デビュー戦、決まったぞ」


 ミナミは、驚いて顔を上げた。


 マッチメイクは営業の仕事だが、新人のデビュータイミングや選手のチーム配属などの選手マネジメントは社長の役割だ。


 ミナミは、昨日プロテストに受かったばかり。

 なのに、もうデビュー戦が決まっていて、ポスターまで発注されている。


(受かるって、信じていてくれたんですね)


「10月第二週、エスフォルタアリーナ八王子の第一試合だ」


 10月第二週といえば、スポーツの日。

 クリスマス、春休み、GW、夏休み程ではないが、秋シーズン一番の大きな大会だ。しかも、慣れ親しんている地元八王子の会場。最高の環境だ。


 そこにデビュー戦をあててくれる。


「しっかり準備しろよ」

「は、はい。ありがとうございます。頑張ります」

「ちなみに対戦相手はツツジだ」

「ほ、本当ですか?」


 大沢は優しく頷いた。 


「ああ。同期だし、いつも一緒に練習しているのも知っている。安心してデビュー戦できるだろ」

「はい、ありがとうございます」


 ミナミは頭を下げた。


(やはり、よく見てくれていて、そしてこれ以上ないほどの配慮もしてくれている。嬉しいです。大沢社……大沢さん)


 最後に、大沢は一言加えた。


「ただ、相手がツツジだからって絶対に空中技は出すなよ。例え、こっそりムーンサルトプレスを練習している相手だとしてもだ」

「……は、はい……」


(なんで、バレてるのかしら……)


 ミナミは真っ赤に赤面した。

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