第38話 休日練習

 SJWの興行は概ね土日。

 若手選手は、自分の試合が無くても興行運営の手伝い(設営や売り子)と先輩選手の付き人・セコンドのために同行する。


 月6回興行なので、月に一度しか土日休みはない。

 とはいえ、他団体が多いところでは年120興行、月10興行をこなしていることを考えると少ない方だ。

 これは大沢の方針によるもので、選手の健康と安全、試合の品質を考えた政策である。

 

 9月は第三週が休暇週だった。

 必然的に、運営会社である株式会社SJWもその週は土日連休になる。


 おかげで、ミナミは思う存分自主練することにした。

 ただ、心残りが一つある。

 結局、巻き込んでしまったのだ。


「本当に、付き合ってくれるの?せっかくのお休みなのに……」


 横でストレッチをしているのはツツジだ。


「いいって。いいって。どうせ休みなんてやることもないしね」


 そして、ツツジはニヤニヤしながら続ける。


「それにしても、よくまあ、社長相手に楯突けるわよね」


 ミナミはウッと言葉に詰まる。

 ワカバの件を指しているのは明白だ。


「確かにね……最初に楯突いたとき、本当は、プロテスト受かって覆面ヒールになったらワカバちゃんのヒールを撤回してもいいって言われていたの」

「え?そうだったの?」

「うん。でも、フライングしちゃった。なんとか許してもらえたから結果オーライね」


 えへへと笑うミナミ。


「すごい度胸ね……相手は社長なんだよ?怒られるとか、クビになるとか、嫌われるとか、思わなかったの?」

「うーん、怒られるかもとは思ったけど、理解してくれるとも思ってたわ。でも……どうしよう、ツツジ、私、嫌われてないかしら?」


 急に不安になるミナミをみて、ツツジは笑い出す。


「本当に、お似合いかもね、ふたりは」

「何よ、そんなんじゃないってば」

「はいはい、のろけはもういいわ。リング行くわよ」

「ちょっと、のろけって何よ。誤解を解いていきなさいよね……」


 文句を言うミナミを放って先にリングに向かうツツジ。

 クスッと笑う。


(……お互いに、信頼し合っているんだもんな。どっちもどっちって感じね)


「……早くくっついちゃえばいいのに」

「え?何が?」

「何でもないわ」


 ツツジはひとりで苦笑する。


(まあ、今のままの方が面白いかもね)

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