第37話 壮行会

 ミナミは、平日は毎朝サクラとアキラからの特訓を受け、夕方はツツジと練習を繰り返し、ついに9月末を迎えた。

 プロテストは週明けの月曜日だ。


「ミナミの合格を祈念して、かんぱーい」

「がんばれよ」

「3度目の正直だぞ」

「よし、今日はガンガン飲もう」


 ゼミの仲間が、前祝をしてくれる。

 いや、ただ単にみんなで集まって飲むための単なる口実かも。


「みんな、ありがとう……でも、3度目を強調しないでよね」


 ミナミの苦情を横におき、4人はさらにミナミネタで盛り上がる。


「デビュー前なのにリングに上がったんだよね」

「SNSでも話題になってたよな」

「え?何の話?」

「これこれ、見る?」


 タマちゃんがみんなに後楽園でワカバのマスクを外すシーンを見せる。


 カメラワークはワカバの素顔に集中していたが、ところどころで後ろからマスクを解くミナミの姿も映っている。

 退場シーンはばっちりツーショットだった。


「もう、恥ずかしいから、やめてよ~」

「何言ってんのよ。プロ合格したら毎週、素敵な水着を着てリングに上がるんでしょ。はずがしがってたら試合なんかできないわよ?」


 女子プロレスラーはコスチュームのことを水着という。

 それなりの美しさと露出を伴う。


「でも……私、覆面だから素顔は見せないもん」


 それを聞いて、4人が顔を見合わせる。


「「ええー!?」」


 ミナミは質問の嵐にさらされ、慌てて状況を説明した。


「何よそれ、ミナミの可愛い顔を覆面で隠すわけ?」

「社長、パワハラ?訴えるんなら法学部のやつらに声かけるぜ?」

「そもそも、ミナミがヒールとか無理だろ?どう考えてもMキャラじゃん」

「ちょっと、Mキャラって何よ、違うわよ。私はSキャラよ」


 だれも反論を真に受けない。

 そんな中、橋本が苦笑しながら言った。


「まあ、どっちでもいいんじゃない?」

「えー?それって、なんだか冷たくねーか?」

「いやいや、アイドル目指しているわけじゃないんだから。覆面してようが素顔だろうが、ミナミはミナミのやりたいプロレスをやれればいいんだろ?」


 それを聞いて、ミナミはすっと気持ちが落ち着いた。


「そういえば、社長は覆面デビューは私のためだって言ってた。何か、理由があるみたいなのよね。だから、私、覆面で頑張るって決めたの」


 4人とも、あきれたような優しい表情。


「ミナミならできるよ~」

「タマちゃん、ありがとう」


 そして、心の中で、橋本に対してもありがとうと呟くのであった。

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