第36話 インタビュー

 SJWでは、すっかり朝練が定着していて、今日も10人以上の選手がリングの周りでストレッチを始めている。


 いち早くリングに上がっているのはミナミとサクラだ。

 まだ内緒だが、プロテストに受かったらヒールデビューしサクラチームに入ることになる。当然サクラの指導も力が入る。


「おら、まだまだ、こんなんじゃ練習終わらねーぞ」

「はい」

「打撃はもっと、腰をいれろ。エルボーは腰の回転力を腕に移すんだ」

「はい」

「おら、下半身もっと踏ん張れ。引っこ抜くぞ」

「ぐぇっ」

「すぐに立たないと、凶器攻撃飛んでくるぞ」

「うがっ」


 いつもなら本社での練習時はマスクをしないサクラは、今日は珍しく覆面で練習していた。

 雑誌記者による朝練の取材が入っているからだ。


 高尾出版社で週刊WW(ウーマン・レスリング)のSJW担当記者、烏山。

 大沢社長とは古い付き合いらしい。


 烏山は、まず一番人気選手のアキラへインタビューを始めていた。


「今年の抱負はなんですか?」

「はい、イズミさんとサクラさんには、借りをお返ししなければと思っています」

「なるほど。その、イズミさんがSJWに合流しますが、アキラさんとしてはどのような……」


 インタビューの間も、リング上ではミナミが打撃を受け、投げ技を掛けられ、仕返ししようとしたら返され、とことんしごかれていた。


 一通りアキラへのインタビューが終わると、今度はリングに向けてカメラを構える。


「これが名物の朝練ですか。アキラさんだけでなく、サクラさんまで出て、すごい迫力ですね」

「はい。最近では朝練が一番激しい練習になってます」


 烏山は、リングでミナミをしごいているサクラを見つける。


「バックに回るときは腕を確保しろ。でないと、逆にKO打撃を食らうぞ」

「はい」

「そこだ、引っこ抜け」

「はい!」


 ミナミは背後からサクラの腰を掴むと、後ろにブリッジしながらサクラをマットに叩きつける。


「いいね。ナイスジャーマンだ。そのままフォール。ブリッジ崩すなよ」


 技を受けつつ練習生を指導するサクラを、烏山は動画で撮影し始めた。


「ん?あれは……?もしかして……」

「はい?何か気になりますか?」

「いや、何でもないです」


 そういいながら、烏山は呟いた。


「これは……面白いですね」

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