第八章 プロテスト3回目 <入社2年目夏~秋>

第35話 大阪大会

 その後も、ミナミは忙しい日々を過ごしていた。

 選手契約と選手とスポンサーとの契約関係の整理と移管、その他もろもろの契約実行条件を整えるのに1か月間走り回って、漸くすべての条件を整えた。


 8月最終日曜日。

 夏休み中最後のツアーであるエディオンアリーナ大阪大会。

 1700人の観衆。


 メイン試合は、久しぶりのツートップ、アキラ対サクラ。

 SJWの最高カードである。


 二人はさすがの試合運びだ。

 観客を飽きさせることなく、技術と技術のぶつけ合いを続けていった。

 

 しかし、じわりじわりとアキラが優位に立つ時間が増えてくる。


「決めるよー!」


 アキラがサクラの背後に回る。


(逆一本背負い!?)


 リング横で、ミナミは両手を握りしめる。


 技が決まり、アキラがフォールに行く。


 その瞬間、予想外の出来事が起こった。

 視界の横から何人かがリング上に乱入したのだ。


 不意を突かれたアキラ。

 レフェリーが静止するも、乱入者たちの狼藉は止まらない。


(嘘……あれって……)


 二人の乱入者に両腕を掴まれ、そして対角線に放り投げられるアキラ。

 その先には、顔面ペイントのヒールレスラーが右腕をぶん回しながら待ち構える。


 強烈なラリアット!


 アキラの体が270度回転してマットに打ち付けられる。


 顔面ペイントは息を吹き返したサクラと一緒に、アキラを無理やり立たせると反転させて高々と持ち上げる。

 ツープラトンブレーンバスターだ。

 そして、垂直に落とす。


「ひっ!」


 ミナミは悲鳴を上げた。

 ただでさえ危険な垂直落下式。しかも二人がかりの反則技。


(なんて、えげつない……)


 サクラがそのままアキラをフォールする。

 アキラはマットに沈んだ。


 観客は大ブーイング。

 しかし、今日一番の盛り上がりをみせている。


 マイクを持つ顔面ペイント。


「おい、お前ら。おれが誰だか知ってっか?」


 観客たちが大声で応える。


「「イズミだ!イズミが乱入した!!」」


 全盛期は過ぎたとはいえ、圧倒的な知名度を誇る驚異的な極悪ヒール。

 そのイズミが観客をあおる。


「おれはこれからSJWを乗っ取る。サクラと一緒にだ。SJWを真っ黒に染めてやる。お前ら、ついて来い!」


「「うおー-----!!」」


 試合後の会場裏でSJWは記者会見を開いた。

 大沢社長とサクラ、そしてイズミが握手をする。


 数多のフラッシュが眩しい。

 

 やがて、袖に戻ったイズミは、ミナミに一言声をかけて去っていった。


「ミナミもヒールでデビューするんだろ?楽しみにしておくぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る