第41話 3回目の合格発表

「じゃあ、スパーリングテストを開始する」


 これまでなかなか点数が取れなかった、苦手科目。

 ミナミは緊張して落ち着かない。


(……大丈夫。アキラさんやミナミさん、それにツツジやワカバちゃんにも特訓してもらったんだ)


 こぶしを握り締める。


「次、ミナミ。リングに上がれ」

「はい」


 リングサイドの特設ベンチに、大沢社長、アラタ、サクラが座っている。

 いつも通り、この3人が審査員だ。


 一瞥して、リングに入る。


(大丈夫。やれるわ)


 ミナミは、先輩レスラーとのスパーリングを開始した。



 そして、全種目の実技テストが終了する。


 控え室で結果を待つ。


 1年半前の3月、ミナミが最初に試験で落ちた時は、ツツジが合格。

 その次の9月の試験ではワカバが合格。

 さらにその次、今年の3月の試験では実は合格者がいない。


 レスラー不足とはいえ、プロとしての実力を備えていない新人を合格させてしまうとSJWの技術力の担保は崩れてしまうし、下手すればけが人が出てしまう。 


 だから、経営とプロテストは完全に切り離されている。

 プロへの門は、それだけ狭く厳しい門になっている。


 やがて、ミナミが呼び出される。


「平ミナミ、入ります」


 3度目の光景。

 でも、今までとは違う。

 今回は全力を尽くせた。

 これでだめなら、もう悔いはない。


 ミナミは審査員たちを前に、頭を下げた。


(大沢社長、アキラさん、サクラさん、本当にありがとうございました)


「審査結果を発表します。基礎体力、スピード、飛び技、投げ技、受け身10点満点。打撃技は6点、スパーリングは9点」


 特訓の成果が、しっかりと点数に繋がっていた。


(これって……これって……)


 頭が真っ白になり、ただ口をパクパクさせるミナミ。


「……ミナミ」


 大沢が席を立ってミナミに近づく。

 アキラとサクラも、ミナミを囲む。


「よく頑張ったな。おめでとう。今日から君はプロレスラーだ」


 大沢が優しく微笑み、ミナミの頭をそっと撫でた。


 3回もチャレンジさせてくれた。

 その間、なんと1年半も、自分を信じてずっと見守ってくれた笑顔。


(なんだか、視界がにじんできた)


 ミナミの瞳から涙が止まらない。


「おめでとう、ミナミちゃん」

「これからよろしく頼むぜ。そのためにみっちり鍛えたんだからな」


 ミナミは全身を震わせながら答えた。


「はい、はい。ありがとうございました。これから、よろしくお願いします」


 何度も頭を下げるミナミだった。

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