第30話 投資判断
ミナミは、提案書をまとめあげると、大沢社長や代田、北沢に時間を取ってもらい、説明を始めた。
QoRの会社の状況、イズミの想い、そして株主から提示された金額感。
「選手10人補強できることが最大のメリットです。買収価額は5千万円です。純資産はほぼゼロですので、支払額の5千万円はQoRのブランド力やベテラン選手の価値ということになります」
SJWは連結し会計をしていないが、大企業のように連結会計をするならば『のれん』として償却費用が発生するところだ。
「その効果で5千万円を回収しなければいけないということだな」
「はい。実は、買収効果でどの程度売上が増加するかを試算しています」
ミナミは、年間の興行スケジュール表を示した。
「今までは小規模興行58回、中規模興行14回の年72回で運営しています。今回、選手40人体制に増強できますので、大規模興行1回、中規模23回に増加できそうです」
大沢の方針、すなわち質と安全を守るため、年間72興行という枠組みは変えたくない。であれば、中身を変えるべきだ。
選手数不足でマッチメイクの幅を出せず大型興行を打てないという大きな課題を抱えているならば、今回の選手増強を機に1興行あたりの規模を増やせばいいはず。
大沢は、ふむふむと頷いた。
「……で、その分、人件費や興行費用、宣伝費、その他経費は増加するはずだが大丈夫か?」
「はい。それを踏まえても、年間19百万円の純利益増を見込めます。回収年数は4.3年。IRRは12%。投資判断的にはぎりぎりGOです」
ミナミが答える。
大沢は営業部長の北沢に質問した。
「これだけ興行の規模を大きして営業リソースは足りるのか?」
北沢は自信満々に打応えた。
「はい。先月から本格的にDX効果が出てきています。選手10名増えることによる管理負担増を踏まえても、営業部隊としては、興行の増強への対応は可能です」
大沢はわかった、わかったというふうに微笑んだ。
「では、前向きに進めるとしようか」
そこで、ミナミが手を挙げる。
「ところで、大沢社長は以前私に『この件を担当するか否か自分で決めるように』とおっしゃってましたよね」
ミナミの挑戦的な視線。
大沢は受けて立つ。
「確かに言ったな。何か条件でもあるのか?」
「はい。あります」
ミナミは凛とした表情で言い放った。
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