第七章 M&A実行 <入社2年目夏>

第28話 投資銀行

 元ゼミで同期のタマちゃんと、渋谷の居酒屋で会う約束をしていたミナミ。


 彼女はゼミでも1~2位を争う秀才で、今は外資系投資銀行に就職している。


(よく考えたら、この件を相談するのは適任じゃん)


 そのタマちゃんは、会うなりミナミに抱き着いてきた。


「ミナミ、元気にしてる?また落ちちゃったんだって?辛くない?」

「タマちゃん、ありがとう。大丈夫よ」


 ミナミは、アキラやサクラも稽古をつけてくれていること、だから次こそ受かる、でも、M&Aに巻き込まれたことを説明した。


「でね、タマちゃんって投資銀行ってことは、M&A業務も詳しいかな?って思って」

「いやーん、私、M&A担当しているわよ。まだ1年目だから調査とかエクセルや資料作りばっかだけどね」

「うそ、ほんと?じゃあ、アドバイスしてよ」


 すると、ウインクして肩をすぼめるタマちゃん。


「うち、高いわよ?」

「どんだけすんの?」

「これくらいかな」


 タマちゃんは指を三本立てた。


「……え?3千万円も取るの?」

「あのねえ。一桁間違えてるから」

「……3億!?」


 ミナミはがっくりとテーブルに突っ伏した。


「買収価額の何倍も高いアドバイザー費用請求するって、どういう会社よ?」

「あはは。外資系は大きな案件しかやらないからね。どう?雇ってくれる?」

「あほか。うち、つぶれるわよ」


 ミナミはムッとしてふくれっ面。


「だよね……まあ、個人的でよければ、内緒で手伝ってあげるよ」


 とたんに、ミナミの表情が満面の笑みに変わる。


「本当?やっぱり持つべき友はタマちゃんだわ。愛してる、タマちゃん。結婚しよ」

「私が欲しかったら3億持ってこい」

「金ばっかかよ」

「すべての価値を金額に換算して取引できるようにする。それが投資銀行の役割よ」

「じゃあ、私のナイスバディの価値でどう?素敵でしょ?好きにしていいわよ?」


 ポーズをとるミナミのプロポーションを、上から下まで舐めるようにチェックするタマちゃん。


「……ミナミ、やっぱりちょっと太ったよね。その体系なら、価値はゼロ円ね」


 ミナミはこぶしを固めた。


「タマちゃん……しばくわよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る