第26話 IZUMI

 面談はスムーズに実現した。


 QoRが拠点としているのが新宿。

 西新宿のシェアオフィスの共有スペースで面会してもらうことになった。


「よく来てくれたね」


 イズミはレジェンドクラスレスラー。

 全盛期は独特の顔面ペイントのパワー系ヒールレスラーだった。


 現在はプロレスラーとしては目立たなくなっているが、テレビのバラエティ番組に出たりしていて、ミナミからすると芸能人にも近い存在だった。


「お、おま、お招きいただきまして……」

「ははは、緊張しなくていいよ。ここはいろんな企業が入っているシェアオフィスだ。あまり大声では離せないのが難点だけど、やっぱり安いんだよ」


 イズミはレジェンドヒールだからと心構えていたが、気さくにいろいろと教えてくれた。


 古いスタイルと無茶な運営や経営が原因でZWWが崩壊した。

 それを機に新規団体が乱立したが、ZWW流が染みわたっているレジェントクラスのレスラーは行き場がなかったから、まとめてQoRとして起業した。

 でもQoR単独では経営が成り立たない。

 ゲスト参戦での採算は限界で、そろそろどこかと統合するしかない。


「どうしてSJWを指名したんですか?」

「まあ、今の団体の中じゃ一番技術追求型だからな。おれたちベテラン勢にとっても一番相性が良い候補だと思ってね。それに大沢もいるしね」

「大沢社長、元々ZWWの経営企画責任者でしたもんね」

「おお、よく知っているな。そうそう、だからよく知っているよ」


 イズミは大沢との関係を楽しそうに話した。


「去年から大沢に打診してたんだよ。うちを引き取ってくれって」

「えええ!?去年から?」

「ああ。それが実って、今回の話になったんだろ?」


 ミナミは開いた口がふさがらなかった。


(……去年からって、全然聞いてないわよ、大沢社長……)


 それとは別に、ミナミは大沢から言われた言葉を忘れていなかった。


『レスラーと経営の両立問題』


 ミナミとしても、ぜひとも結論を出したい問題であった。 


「あの、私、レスラーと経営企画を兼任してまして……」

「ああ、聞いてるよ。練習生なんだろ?」

「はい。今後も、この兼任は続けることになりそうなんですが、本格的にレスラーとして歩むにあたって、本当に両立できるか不安でして……このままでいいのかな、って……」


 それを聞くと、イズミはニカッと笑った。


「いいんじゃない?」

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