第24話 係長
「なんで、うちなんですか?」
ミナミは当然質問を投げかける。
「DIVAや他にも、もっと大きな団体があると思うんですけど……」
それに対し、山田はにこやかに答える。
「はい、その選択肢もありますが、他の大手団体は選手数も多いことに対しSJWは選手不足気味で増強ニーズが強いだろうということ。もうひとつは、QoRの代表イズミ選手がSJWへの移行を要望したからという二点が理由です」
イズミは往年のトップレスラー。
現在はQoR代表として選手と社長を兼務している。
「うちが要望されたんですか」
「はい。詳しい理由はわかりません」
QoRの選手は全部で10人ほどなので、自団体だけで興行を開ける規模では無い。
他団体へゲスト参戦がメインで、SJWにも何度かゲスト参戦したことはある。
(そのときに、うちが一番相性が良いと感じたのかしら……)
一通りの質疑応答を終えると、山田はいくつかの書面をテーブルに乗せる。
「こちらがQoRの概要資料です。これ以上の情報については、こちらの秘密保持契約を締結してからとなります。それでは、良いお返事をお待ちしています」
そうして、山田はSJWを後にした。
残されたミナミと代田は途方に暮れる。
「大沢社長、どうしましょう?」
「そうだな。まあ、うちが万年レスラー不足であることに違いはない。ここで、ベテランレスラーたちを受け入れることができるのであれば、良いことではあるのだがな」
「問題は、コストですよね」
「そうだな。採算がとれるかどうか……良い手があればいいんだけどな。経営企画部の係長として、方針を検討してほしい」
(なんか、耳慣れないような単語が……)
「……経営企画部の係長?」
だれだろう?とキョトンとしているミナミに、代田がこっそり囁く。
「……ミナミちゃんのことよ。4月からそういう役職になってるのよ」
「……ええ!?わ、私ですか?」
(辞令など貰ったこともないのに、勝手に昇格しているなんて……)
「まずは秘密保持契約を結ばなければ話は始まらないだろう。顧問弁護士に聞きながら進めてほしい」
「わ、わかりました……」
大沢は会議室を後にしようとするが、途中で足を止めて振り返った。
「ああ、そうだ。M&Aを進めるとなると業務はかなり忙しくなる。ミナミに担当してほしいが、最終的にこの件を担当するか否かは自分の意志で決めるように」
大沢は重い一言をおいて社長室に戻っていった。
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