第23話 突然の呼び出し

 練習日は朝練でトップレスラー二人からこれまでに無いほどの特訓を受け、9時の始業時にはすでにヘロヘロになっていたが、幸いなことに3月までのような業務の逼迫はなく、なんとかこなしていたミナミだった。


 だが、5月末に状況は一変する。


 大沢社長がいつもに増して、小難しい表情でオフィスに入ってきた。


「代田さん、それと、ミナミ。社長室に来てくれ」


 いつもと雰囲気が違う。

 ピリピリしている?

 ミナミは経理部長の代田と顔を見合わせながら、社長室に入った。


 そこには、一人の青年が直立していた。


「ランドパートナーズの山田です」


 名刺をもらう。

 ランドパートナーズ?

 聞いたことがない会社だ。


「M&A仲介の方だ」


 大沢社長は、みんなを応接ソファに導きながら解説した。


「え、M&A?ちょ、ちょっと待って下さい、社長。いくら業績がイマイチだからって早まらないでください。せっかくDX改革を通じて、GW大会も乗り越えて、これから挽回しようってみんな頑張っているところですよ?」


 ミナミは慌てて捲し立てた。

 このままSJWが買収されて、経営陣交代なんてことになったら、大沢社長との接点もなくなっちゃうかもしれない。


 まさに顔面蒼白の事態だ。


 だが、大沢は苦笑いしながら制した。


「まあ、待て。うちを売却する話ではない」

「……へ?」

「他の女子プロレス団体を、うちが買収しないかという話を持ちかけられた」


「「……ええええ!?」」


 M&A仲介の山田が背景を説明する。


 3年前、日本全国を一世風靡した全和女子プロレスリング(ZWW)が選手大量離脱により5つの団体に分裂した。


 そのうち、最も規模が大きい『DIVA』は、アイドル採用と実力派の双方を組み合わせた革新的な取り組みで圧倒的な人気を博す。 


 次点の『OWP』、正式名称は大阪女子プロレス。パワー系でトップヒールの渋谷は現役女子レスラー中最強と言われている。


 その次は『ガルパ(ガールズパワー・プロレスリング)』、DIVA以上にレスラーのアイドル化を進めている。


 そして、四番目が大沢が率いる『SJW』、テクニック実力派。アイドル系レスラーにも高い技術力を求めている。


 五番目が『QoR』、旧ZWW時代に業界を牽引したレジェンドクラス10名が所属する。


「そのQoRが経営難で、株主である持株会社が売却したいと言っているんです」

「……え!?」


 ミナミは予想だにしていなかった展開に、すぐには頭がついていかなかった。

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