第18話 ヒール組
プロテストに向けて、ミナミは夕練を続けていたが、焦りは大きくなるばかりだった。
(やっぱり、全然体力が戻らない。仕事があったからって、さぼり過ぎたんだ)
後悔先に立たず。
今はできることを頑張るのみ。
仕事を終えて、2階の更衣室に入ると、後輩のワカバが練習を終えたところだった。
「ワカバちゃん、最近どう調子は?」
「あ、ミナミさん」
キャピキャピ系でまだ若く、まさにアイドルっぽい可愛さを売りにしているワカバ。厳密にはミナミより先にデビューしているのだが、今でも先に練習生になったよしみで先輩と慕ってくれていた。
だが、今はなんだか表情が明るくない。
(ちょっと気になるな。そういえば、先日のチャットも未読のまま返信がなかったものね……)
ミナミは更衣室のベンチに隣り合って座る。
「どうかした?何かあった?」
「……実は……」
彼女は、うつむいたまま、無表情に話し出した。
「GWシリーズから、サクラさんのチームに配属されることになりました」
「……え?どういうこと?」
にわかに信じられなかった。
ヒールで覆面のトップレスラー、サクラのチームってことは、ヒール組だ。
どっからどう見てもアイドル路線一直線のワカバがそこに配属なんて考えられない。
「仕方ないんです。団体の幹部が決めたことですから」
「幹部って、サクラさん?それとも……社長?」
「仕方がないんです!」
ワカバは質問には答えずに、もう一度そう言った。
先ほどよりも強い語気で。
「……決まったことですから、従うだけなんです……」
「……」
ミナミはバッと立ち上がる。
そして、ワカバに背を向けると歩き出しながら捨て台詞を残した。
「私、文句言ってくる」
「え?ちょっと、ミナミさん?」
ミナミは自分でも不思議だったが、体が勝手に動いた。
あんなに、目が合うだけでもドキドキしていた大沢社長。
上司でもあり雇用主でもある社長。
ちょっとだけ、気になっているかもしれないひと。
その大沢に、喧嘩を売りに行こうとしている。
でも、なぜか怖くなかった。
(大沢社長が、そんなことするなんて……信じたくないんです。大沢社長なら、わかってくれると信じてるんです)
ミナミはトレーニングウエアのまま、社長室に突撃した。
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