第16話 システム起動

 4月1日。

 今日から完全に新DXシステムで業務を行う。


「では、システム起動します」


 片倉が静かに宣言し、ついに新システムが稼働した。


 稼働後は、従業員たちからいくつも質問が出たものの、片倉がずっとオフィスで対応してくれていたので、夕刻には概ね問題なくみんなが業務をこなすようになっていた。


 大沢社長が営業部長の北沢に話しかける。


「どうだ?新システムは」

「はい、かなりいいです」

「そうか。で、どのくらい業務が効率化される?」


 大沢は、にやっと笑った。

 北沢は大沢の罠に自らハマりに行く。


「70%は効率化できそうです」

「そうか、それは良かった。5千万円もの投資だ。それぐらいは効果が欲しいよな」「はい!」

「じゃあ……営業は給料70%カットでいいな?」

「へ?ちょっと、待ってくださいよ……」


 慌てる北沢。


(大沢社長……たまにお茶目なんだから……)


「まあ、冗談だ。とにかく、しっかり売り上げアップに貢献させてほしい。頼んだぞ」

「はい、もちろんです」


 みんなの笑い声で、事務所全体が和やかな空気に満たされていった。


 そして、大沢社長は片岡に手を差し出した。


「良いシステムです。ありがとう。業務を隅から隅まで把握したうえで対応してくれたおかげです」

「とんでもないです」


 二人はがっちりと手を握る。


 クラウド型DXシステムは保守メンテが継続するので、長い付き合いになる。

 費用は年間2百万円ほど。


 そして、大沢がミナミの前にやってきた。


「ミナミもよくやってくれた。ありがとう」


 ミナミは瞳を大きく見開いた。


(嘘……大沢社長にこんな風に認めてもらって、褒められて、こんな嬉しいことはないわ)


 嬉しくて片岡に目を向けると、優しく微笑んでくれる。


(ああ、私、大きな仕事、なんとかやり遂げたのね)


 胸にジーンと込み上げてくるものがあった。


 そして、片岡が会社を出るとき。


「ミナミさん、よかったら、今日、お祝いで飲みに行きませんか?」


 ミナミはドキッとした。


(ひょっとして、私のことを?……いや、そんなわけないわね)


 すぐに、にこやかに返事をする。


「ありがとうございます。でも、これから練習したいんです。最近、練習不足だったから」


 まったく未練も迷いもない表情。 


(ふふふ。社長に褒めてもらえた。とてもうれしいから、練習したい気分なの)


 楽しそうに二階へと消えていくミナミだった。

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