第7話 非常識な女子中学生

「そのときは、面接官に親の同意書もないんじゃ受付もできないって断られたんだけどね」


 ミナミは慌てて取り繕うように状況を説明する。


「そりゃそうでしょ。なんて非常識な女子中学生……。面接官もいい迷惑だったでしょうね」

「でも、一生懸命熱意を伝えたら、私のあこがれのレスラーに会わせてくれたのよ」

「それはよかったじゃん。で、やっぱり帰れって言われたの?」


 単純思考のミナミから面白いネタを引き出すことに長けているこの四人。

 その手のひらで踊らされていることに気付かいないミナミ。


「そんな冷たい人じゃなかったわ。急ぐ必要はないから、今のうちから足腰鍛えておきなさいって言ってもらったの。だから、長岡に戻ったあとアルペンからモーグルに転向したわ」


 その回答を引き出して、4人が目を合わせて爆笑した。


「わはははは!ミナミ……やっぱりそれって変だわ」

「変じゃないわよ!」


 当時、雪国の新潟県長岡市の中学生で、スポーツといえばクラブのアルペンスキーしかやったことがなかったミナミからすれば、極めて合理的な選択だったと本気で信じ込んでいる。


「モーグルってすごいのよ?1秒の間に2個も3個もコブを越えるの。そのたびに腹筋と腿とを思いっきり畳んだり伸ばしたりするでしょ。絶対足腰強化に効くと思うのよ」


 4人はあきれた表情、そのあとまた大爆笑。


(な、何よ。実はモーグルのエアはプロレス技にもつながるんだって、言いづらくなっちゃったじゃない……)


 そんなミナミの不満などお構いなしに、5人衆の突っ込みは止まらない。


「柔道とかレスリングとかならわかるけど、スキー?ミナミらしいよな」

「しかも、プロレスのために種目転向までしちゃったのか」

「本当にプロレスバカだな。よく大学4年生までおとなしく学生続けていたもんだ」

「中学修学旅行で事件起こしてるんだもん。さすがのお転婆ミナミちゃんも、大学入ってまで更なる事件を起こすほどおバカさんじゃないわよ。ねぇ、ミナミ?」


 それらのコメントを聞いて、ミナミは赤面してうつむいた。


(……言えない。実は大学入ってすぐにもう一回、親に黙って入団試験受けに行ったなんて、口が裂けても言えない……)


「ま、とにかく卒業前に何とかみんなの行き先が決まったんだ。めでたいに変わりない。飲もうぜ」

「飲もう、飲もう」


 こうして、新社会人なりたてのゼミ仲間との夜を堪能するミナミたちであった。

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