第6話 ゼミ仲間5人衆

「え!?正社員就職してたの?」

「卒業式直後に決まった?プロテストは落ちたって?」

「えっと、情報量が多すぎて理解が追いつかないんだけど……」

「おい、橋本。お前のAIで解析してくれよ」

「いや、AIは常識的な答えは返せるが、こんな非常識な状況は分析できない」


 大学のゼミの仲間と居酒屋で集まるといつもこうだ。

 ミナミは格好のからかわれ役である。


「ちょっと。非常識って何よ。非常識って」


 一応反撃するものの、倍返しされるのがパターンだ。


「東大の経済学部に入ったのにプロレスラーになるなんて、そもそも常識では考えられないだろ。永山ゼミ創設以来の珍事だぞ」


 こう言う稲田は大手コンサルに内定している。『そもそも』が口癖だから、コンサルは天職かもしれない。


「しかもプロテスト落ちちゃうなんてな。だから大手企業に就職しとけって言ったんだよ」


 こちらは堀之内。4大会計事務所に内定している。クールすぎて、人が傷つくこともさらっと言ってしまう。


「はいはい、そこまで。ミナミはテスト落ちて傷心なのよ?慰めてあげられないの?」


 やさしい言葉をかけてくれるのは、唯一の女性のゼミ仲間、タマちゃん。ゼミで1~2位を争う好成績で、外資系投資銀行に内定している。


「就職できたんならよかったじゃん。無職じゃ練習も続けられないだろうし。でもその会社、よくこんな不思議ちゃんを正社員で雇ったな」


 先ほどミナミを『非常識』と評した橋本。

 ことあるごとにミナミを弄ってくるひょうきんものだが、実はタマちゃんを凌ぐ好成績の実力を持つ。

 就職活動はせずに、同じく東大の有名なAI研究室の同期と一緒にAI事業のスタートアップを立ち上げ、卒業を待たずにCEOとしてすでに事業を開始していた。


 みんなで乾杯して、これまでの経緯を洗いざらいしゃべらされるミナミ。


 小学生で女子プロレスに魅せられたこと。

 中3で高校入試せずにプロレスラーになりたいと親に言ったらこっぴどく怒られたこと。


「ええ!?中3でプロレスラーになりたいって、バカなの?ミナミ」

「失礼ね、バカじゃないわよ。本気よ。だから、中3の修学旅行で東京に来たときにZWW(当時の大手女子プロレス団体)の入門試験を受けに行ったんだもん」


 それを聞いて、一瞬4人が目を見合わせた。


「「ええー?マジで?」」


「え?……ま、まあ、マジ……よ?」


 あまりのみんなの驚き具合に、この話をしたことは失敗だったかもと思い始めるミナミだった。

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