第8話 初めての経営会議

 入社して1か月が経ち、ミナミは、経営会議に召集された。

 メンバーは、大沢社長、経理部長の代田、営業部長の北沢。


「ミナミ、経営改革のプランはできたか?」


 ミナミはただでさえ大沢と同席の会議、しかもいきなり直接指名されて、思いっきり慌てた。 


「は、は、はい。お手元の資料で説明します。当社は売上3.25億円です」

「中小団体としてはすごいだろ?」


 いつもクールで凛々しい大沢が、ニヒルな笑みをみえながらおどけて見せる。

 

(ずるい……普段は不愛想なのに、たまにそういうところを魅せてくるテクニックを自然と使うんだから……)


「……はい。でも、純利益は3.3百万円。利益率1%です」

「そこだな。めちゃくちゃ利益出したいわけじゃないけど、もう少し余裕がないと、選手の契約金もアップできない」

「具体的に議論させてください」


 ミナミはいくつかの案を示した。

 そのうちのひとつは興行数の強化だった。


 SJWは現在、年間72興行を貫いている。

 かつて百人以上の選手を抱え栄華を誇ったZWWは少なくとも年間150興行、多い時期には300興行近く開催していた。

 しかし、それは選手への負担、試合のマンネリ化につながったと、大沢は考えていた。


「SJWは試合の質と選手の安全を第一に考える。だから月あたり6興行、すなわち年間72興行。これは絶対に変更しない」


 大沢は確固たる決意でそう語った。


(かっこいい……)


 ミナミはぼーっと見とれている……場合じゃなかった。そうなると、他の施策を考えるしかない。


 大沢、代田、北沢と喧々諤々議論を繰り広げ、最終的な議論結果をホワイトボードにまとめた。

 

 × 売上アップは難しい(興行数は増やせない)

 × 興行費用はすでにかなり削減済

 × 人件費は削減不可(みんな安月給……)

 〇 残りの経費(全体の12%)の切り詰めプランを考える

 

「じゃあ、次はどこの経費を切り詰めるか、具体的な施策を進めてくれ」


 こうして、会議が終わる。


 ミナミはどへーっとため息をついた。

 いろいろあったけど、怒られなかったということは、今のところ大沢の期待通りに進んでいるということだろうか?


(そうだと……いいな)


 そして、いつものように退勤カードを通すと、2階におりて着替えて、夕方の練習に行くのだった。

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