第3話 魅惑のオファリング
「……新卒……採用?」
「ああ。ミナミは大学で経済学部専攻だっただろ?」
不合格のショックに続き、大沢から突然大学時代の学部の話を振られ、しかもいきなり名前で呼ばれたからか、ミナミのドキドキは極限まで高まり思考回路が麻痺し始める。
「は、はい。経営学のゼミでした」
「その力を活かして、当社の正社員として経営を立て直してみないか?」
「せ?セイシャイン?」
予想外の展開に、何の話か理解できない。
「ああ、運営団体の会社の方の正社員にならないかという話だ。給料は安いけど、業務時間外なら練習を続けてもいい。次のプロテストに受かれば、選手登録も可能になる。どうだ?」
それを聞いて、耳を疑った。
(え?マジで?でも、そんな美味しい話があるのだろうか?)
プロテストに落ちたからには契約料は入らない。卒業したら親からの仕送りも期待できないから、練習生を続けるならバイトでもしなければ生活できない。
でも、正社員にしてもらい給料ももらえて、しかも練習は続けて良いというのであれば、今のミナミからすると最高の条件に思えた。
(全く意味が分からないけど……失うものなんて一つもないから考える必要もないわよね。この提案を受ければ、大沢社長の近くにいられるってことだし。よし、やってみるわ!)
ミナミは覚悟を決めた。
「はい。ぜひよろしくお願いします」
こうして、ミナミは女子プロレス団体SJWを運営する運営会社『株式会社SJW』に中途採用で入社することになった。
……美味しい話だと勘違いして……
ミナミが会議室から出ていったあと、アキラが社長の方を向いた。
「ありがとうございます。ここで突き放さないように取り計らってくださりまして。彼女の素質とセンスは抜群ですので……」
丁寧に頭を下げる。
「そうだね。彼女の素質はおれも評価しているからね。彼女と初めて会ったときから……」
大沢は、以前ミナミが大沢に言った言葉を思い出していた。
『究極の技と技のぶつかり合いの魅力がきちんと評価されるようなプロレスの世界を作りたい』
そして、慌てて頭を掻きながら付け加える。
「それに、ちょうど会社としても人手不足だったんだ。抜群の学力を誇る新卒学生を社員として獲得できるチャンスだ。逃せないだろ」
大沢は不敵な笑みを浮かべた。
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