第二章 プロテスト <入社直前>

第2話 合格発表

 少し遡って3月末。


 女子プロレス団体のプロテスト控室。


 ミナミは自分が呼ばれる番を待っていた。

 小学校のときにプロレスラーになる夢を掲げ、色々あったが何とかここまでやってきたのだ。緊張で自然と両手が震えてしまう。


 そんな中、ひとり明るい笑顔で出てきた女性がいた。


「ミナミ、やったよ。私、合格だった」

 練習生同期のツツジだった。

 柔道部出身で、生粋の格闘センスをもっている。

 練習生一同の中ではプロテスト合格に一番近いと言われていた。


「大丈夫って言ったでしょ。半年以上一緒に練習してきたんだから、私はわかっていたわ」

「次はミナミの番だね。多分大丈夫よ。一緒に合格しようね」


 すると、ついに呼び出しがかかる。


「平ミナミさん。会議室へ」


 立ち上がる。

 ツツジが隣でガッツポーズを示す。

 こくんと頷くと、会議室に入った。


「お願いします」


 面接官テーブルの中央にいるのは社長の大沢だ。


 3年前に、女子プロレス代表的存在だった『全和女子プロレス(ZWW)』が5つの団体に分裂したときに、そのうちの一つとして『SJW(スイート・ジャパン・ウーマン・レスリング)』を立ち上げてここに至る。


 まだ30才。若手でやり手と評判だ。


 ミナミにとって大沢は以前から憧れの対象だった。

 でも、それは成功したビジネスマンとしての憧れではない。


(その裏に隠れている、優しさを知っている……)


 だから面接の緊張とは違う意味で、ミナミの胸の鼓動は一段と早くなる。


 大沢の横にSJWトップレスラーのアキラが座っていて、審査結果を手に持っていた。

 

「基礎体力、スピード、飛び技、投げ技、受け身はいずれも10点満点ですが、打撃技は4点、スパーリングは5点」

 ミナミは格闘をやってきたわけではないので、パワーと実戦の課題は自覚していたが……


「合計59点。不合格です」

 アキラが申し訳なさそうに告げる。


(うそ……1点差、不合格!?)

 ミナミは茫然と固まった。


 半年前に親の反対を押し切って練習生になり、プロレスラーになることしか考えていなかったから就職活動もしていない

 大学4年生の3月下旬、卒業式も終わっていて、あと数日で4月を迎える。


(来月からプータロー?SJWにも通えなくなる?)

 頭の中が真っ白になった。 


「とはいえ、かなり惜しい点数であったことも確かで、このまま不合格にするのはもったいないということで、別の選択肢を用意してみた」

 大沢は『新卒採用募集要項』という書類をテーブルに置いた。

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