第三章 コストダウン改革 <入社1年目春~夏>

第4話 経営企画部

 SJWの本社ビルは、八王子の郊外にひっそりと立っている。

 4階建ての小さく古い町工場的なビルだ。

 どうやら自社保有しているらしい。


 1階は倉庫と練習場。リングもある。

 2階は更衣室とフィットネスルーム。

 3階が本社事務所。社長室と会議室もある。


 ミナミの仕事場は3階の事務室だ。


『経営企画部に所属し、大学での経験を活かして経営改革を始めてほしい』

 これが正社員としての入社にあたって大沢社長から指示されたこと。

 めちゃくちゃざっくりリクエストだ。


「……あの、経営企画部長はどなたですか?」

「私だ。社長と兼務だ」

「……部員は?」

「他にはいない。中小企業だから仕方がないさ。何にかあれば何でも聞いてくれ。経理部長にも協力するように言ってあるから」


(ええ?大沢社長に直接!?)

 ミナミは嬉しいのか緊張なのかわからない複雑な気持ちでわかりましたと答える。

 だが、実際には何をしたらいいのか全くわからない。


 早速、経理部長の代田に声をかけてみた。

 選手にとっても練習生にとっても、いつも優しいお母さん的存在だ。


「ミナミちゃん、よくうちに就職してくれたわね。ありがとうね」

「よろしくお願いします。本当に人手少ないんですね」

「儲かってないから人も増やせなくてねえ」


 社長合わせて役員、従業員は計5人。

 ミナミをいれてもやっと6人。

 よくこれで業務が回っているものだ。


「聞きたいことがあれば何でも聞いてね」

 そう言って決算書を渡してくれる。


 ミナミは、最初の1週間は情報収集と分析に明け暮れた。

 そして、概ね状況を把握したころ……


「一度、税理士さんと話してみたらどうだ?」

 大沢社長がおもむろに提案してきて、早速翌日に面談がセットされた。


 会議室で顔を合わせたのは、若いイケメン税理士さんだった。

 代田が同席してくれている。


「この娘が平ミナミちゃん。経営企画担当の新人よ」

「よろしくお願いします」

「北野です」


 名刺には『北野税理士事務所』と書かれていた。


 北野は、決算処理から税務申告まで全部お願いしてるんだから当たり前ではあるが、本当に当社のことをよく知っていた。


 ミナミも経済学部出身。決算書も相当読み込んできたので、話はテンポよく進み、すぐに打ち解けて会話できるようになっていた。


(どんな質問にも笑顔を絶やさずに明快に答えてくれる北野さん。頼もしくてかっこいい)


 すぐに約束の1時間が過ぎ去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る