第12話 メインバンク
ミナミは唐突に経理部長の代田に質問した。
「銀行の担当とお話をしたいんです……」
「あら、いいけど……」
代田はちょっと不安げに答えた。
「結構、お調子者だから気をつけなさいよ?」
そう言いつつも、ちゃっちゃと担当に来てもらう段取りを取り付ける代田。
ミナミは、お調子者なバンカーってどんなのよ?と苦笑いしながら会議室に入ると、自分の考えの浅はかさを痛感した。
「あなたがミナミさんですね?初めまして。会いたかったです。代田さんに合わせてくださいと言ってもいつもはぐらかされていて。いや、だってですよ?僕も……(ベラベラベラ……)」
いきなりマシンガントーク。
「……ということで、お近づきのしるしにぜひ今度お食事にでも……」
「え?どういう?」
面食らっていると、代田があきれて柴崎を止めた。
「はいはい、うちの看板娘を気軽に誘わないように」
「えー?御社担当としてコミュニケーションをつなげておきたいんです。ね、ぜひぜひ」
「選手たちからも苦情来てるんですよね?そのうち、銀行にもクレーム入っちゃうかもしれませんよ?」
それを聞いて、途端にしゅんとなる柴崎。
(銀行員って堅いイメージだったんですけど……)
ミナミは困惑。そんなミナミを見て、柴崎は何事もなかったかのように詰め寄る。
「で、ご用件は何でしたっけ?」
ミナミは、逆に待ってましたとばかりに笑顔で答える。
「はい。DX投資のための資金を融資して欲しいんです」
それを聞いて、甘いマスクで肩をすくめる柴崎。
「かなり準備が必要で素人では難しいですね。まあ、僕が一肌脱いで指導を……」
恩着せがましく振る舞おうという魂胆。
だがその虚勢は見切られていた。
「ならいいわ。他行にあたるから。メガバンクに行った同期に相談しようかな?」
代田がこっそりと、ミナミは東大経済学部卒だと伝える。
柴崎の顔色が真っ青になった。
「え?あ、ちょ、ちょっと……」
可哀そうなくらいの慌てぶり。
(メインバンクが無借金取引先への融資を他行に奪われるなどあってはならない珍事でしょ?よくまあ一肌脱ぐなんて言ったわね)
ミナミはため息をつきながら助け舟を出した。
「財務資料は全部揃えたわ。こっちは事業計画書」
「は、拝見しま……」
柴崎が資料を手に取ろうと手を差し出すが、その前に紙を一枚突きつける。
「これが借入条件の要望書。これを持って帰って、しっかりと審査してくださる?できないなら、借入もお食事も、お、あ、ず、け、ね」
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