第11話 要件定義

 ミナミは、大沢社長に提案をしに行った。


 入社当初は面と向かうだけでドキドキしてしどろもどろだったが、毎日顔を合わせていくうちになんとか普通に説明できるようになってきていた。


「DXカスタムか。前に考えたんだけど、コストが高いから断念したんだよな」


 SaaSと言われる標準機能を使うだけのDXなら安く導入できるが、特殊カスタムとなると開発費が億単位になりがちだ。


 だが、ミナミはいつになく食いついた。


「ゼミ仲間が安くて評判が良いコンサルを紹介してくれたんです」


 ミナミが熱意をもって訴えること自体が嬉しいようで、大沢はふっと笑った。


 それを見て我に返ったミナミは、顔を赤くして俯く。


「わかった。そこまで言うなら話を聞いてみよう」

「本当ですか?ありがとうございます」


 こうして、コンサルとの面談がセットされた。


「メジロコンサルティングの片倉です」


 Tシャツの上から、秋を先取りしたブラウンのライトジャケット。

 これぞITコンサル。


「弊社は創業10年のシステム・コンサル会社です。細かいことは置いておいて、ポイントは2つだけ」


 ①オフィスに入り込み業務内容を把握、適格なカスタムを提案

 ②無償公開プログラムを活用、開発も運用も安い


「まずは、しばらくの間、実際の業務内容をヒアリングさせてください。それを分析して、見積もりを提案します」


 こうして、片倉が質問し、ミナミが社内に確認した業務内容を堀之内に伝えるというループが始まる。

 質問と回答は毎日何回も繰り返された。


 そして、ある日、喫茶店で会議することになった。


「会社の外なら二人きりで話せるしね」


(……え?それって、どういう……?)


 片倉は話を進める。


「要件定義をしてきたよ」

「要件定義?」

「顧客の要望と解決策を、具体的な言語や数値で定義した仕様書のようなものさ」


 嫌がらずに説明してくれるところも好感が持てる。


「こんな感じでどうかな」


【自動化対象】

 ・広報(選手マネジメント・健康サポート、HP運営、映像制作)

 ・企画(興行スケジューリング・対戦組み合わせ)

 ・運営(会場手配、人員確保、行政手続き、機材の手配、ビラやポスター)

 ・営業(チケット販売や物販グッズの調達、販売)


 次のページから細かい内容が記載されている。


「すごいです……あ、でも、お値段、高いですか?」

「格安で提案するよ。あ、コーヒーもう一杯どう?仕事の話だけじゃつまらないし、少し雑談しようよ」

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