第14話 投資回収

 大沢社長、経理部長の代田、営業部長の北沢、そしてミナミ。

 テーブルの上には見積書。


 ・開発費 5千万円

 ・運用費 年間2百万円


 議論すべき論点は二つ。


 まず、5千万円もの多額投資をするメリットがあるのかどうか。


「何年で回収すべきと思う?」


 大沢の問いかけに、ミナミはドキドキしながら答える。


「業務改善用ソフトウエア開発の償却期間と合わせるなら5年です……」

「じゃあ、今回の投資は5年で回収できるのか?」


 ミナミは投資判断に関する詳しい計算シートを見せる。

 本投資による資金貢献は年間約16百万円。


「3.4年で回収できます」

「なるほど。わかった」


 大沢は小さく頷く。

 ミナミはほっと胸をなでおろす。


「で、どんな業務改善ができる?」

「営業と総務、経理、そして広報業務を自動化して、そのリソースを新たな売り上げ拡大に使います」

「具体的には?」

「手書き書類の電子化。電話応対、選手マネジメント・サポート、ホームページ運営、映像制作、興行企画サポート・スケジューリング、会場手配、人員確保、行政手続き、機材の手配、公告印刷、ビラ配りの手配をほぼワンクリックで対応できます」


 ミナミが息を継ぐと、営業部長の北沢が後を引き継ぎ追い打ちをかける。


「社長。このシステム入れてもらえれば、営業はもっと本当の営業に力を入れられますよ」


 北沢の演説は調子が上がる。


「物販だって新商品の企画もできるし、将来、選手数や興行数を増やしても対応できる余地ができます。社長」


 波状攻撃を受け、腕組みをして深く唸る社長。


「その資金は捻出できるのか?」


 ミナミは資金繰り表を見せながら、恐る恐る答える。


「5千万円投資したら現預金の残高は心許ないので、銀行から借りたいと思います」


 すぐに代田がフォローに入ってくれた。


「借入をうまく活用しないと、事業の改革や成長は望めませんよ」

「まあな。で、銀行はなんて言ってる?」

「ミナミちゃんが条件交渉頑張ったから、5千万円借り入れ、1年無利子返済猶予となったわ。良い条件でしょ?」

 

 それを聞くと、ミナミの方を一瞥する大沢。


(多分……悪くない反応のようだけど……)


 やがて、大沢はサングラスの中から鋭い目つきで全員を一瞥した。


「わかった。進めてみよう。この結論を、取締役会の第一号議案決議事項にしておくように」


 ミナミは目が点になった。


(……え?この会議って……いつの間に取締役会になってたの?)

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