14話 親友=元カレ=今カレ

ぼくはマンガやアニメのいわゆる過去編が好きじゃない。尺稼ぎのような、聞いてもいない自分語りのような、あるいは、登場人物がノスタルジーに浸っているだけのような気がするからだ。


「フジとミミの分身が付き合ってる? 今も? どういうこと?」


そんなぼくが自ら過去を聞き出そうとするなんて、なんだかおかしい。


「わたしの「わたしたちの」傷がまだ少なかったころね、フジと付き合ってたの。その頃も寝たら増えちゃう体質だったけど、一ヶ月に一回あるかないかで」

「増えたときはフジには内緒で処理してた、伝わる?」


当たり前のように「処理」という言葉が使われている。ぼくは「伝わるよ」と答えた。


「「でもね、だんだんペースが上がってきたの」」


ぼくは駅まで歩きながらミミたちの話、過去回想を聞いた。歩きながらだと表情を見ずに済む。少しだけ、気が楽で、けれども、何か大事なことを見落としているような心地がした。


「そしたら傷が増えるでしょ?」

「殺し合うわけだし」

「「ね」」

「それに、その頃はまだ、わたしも怖かったし。殺し合うのは」

「中途半端に刺すから傷になっちゃうのよね」


二人は同じ記憶を持っているからか、テンポよく、それに、どこか楽しげに語る。いつもより、声のトーンが少し高い。


「「バレちゃったの、増えちゃうこと」」

「打ち明けたわけじゃなく?」


ミミたちはわざと声を重ねるようにして「「バレたの」」と強調した。フジの前で、ミミは眠ったのだな、とぼくは思った。


「わたしが悪かったのかな、なんかね、バレちゃったその日のことなんだけど」

「それこそ君に頼んだみたいに」

「「寝たくない、増えたくないって言ったの」」


ミミたちの歩くペースが少しだけ早まる。けれども、歩くペースが早まったことがわかるくらい早めたのだから、少しだけでなく、かなり早めたのかもしれない。


「ただ、フジが君と違ったのは」

「フジはね……」


ミミたちは同時に止まった。それが駅についたからなのか、大事なことを伝えるための準備だったのかは、ぼくにはわからない。


「「本当にわたしを寝かせなかったの」」


ぼくはミミたちの顔を覗き込んだ。3つの点で描かれたかのような、すごくシンプルな表情をしている。


「だからね、あのときの分身は」

「わたしの分身は」


ミミは再び歩きはじめ、改札を抜けた。ぼくもそれに続く。


「「今も眠らずにフジの家にいる」」


あと3分で電車が来る。どこに向かうのか、向かうべきなのかミミに聞かずともわかった。




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