11話 無限増殖PART2

「殺し合わなくていいよ、ミミ」


大暴れ……、暴れるというより大乱れていた二人のミミはぼくの言葉を聞いて止まった。それこそ、一時停止みたいに、機械じみた正確さで。


「殺し合わないで、ミミ」


もう一度、繰り返してから、ぼくは二人のミミの瞳を交互に見つめた。見つめ終わったあとは、二人の間の何でもない空間を見つめた。


「「勝手なこと言わないでよっ!」」


二人のミミはほとんど同じ手振り身振りで続けた。


「殺さなかったら、増えちゃうんだよ?」

「2人の次は4人、4人の次は8人、8人の次は16人……あははっ」

「少ないうちに」

「「減らすしかないの……」」

「わかる?」

「わかるでしょ?」


「減らさなくていい」


ぼくはふたりのミミの肩に手を置いた。


「無責任で身勝手な……、これは、ぼくのわがままだよ。何も考えてない、目の前のことしか考えてない馬鹿な彼氏の願いだよ。……だから、ミミはいったん全部、馬鹿なぼくのせいにしちゃえばいい」


ミミの身体は共鳴するように、ほとんど同時に震え出した。


「本当に……、本当に「本当に本当に」ホントに」

「「増えちゃうよ?」」


手を置いたまま、ぼくは頷いた。


「好きなだけ増えていいよ、いくらでも増やそう」


ミミそれぞれが、ぼくの手を握り、少しためらってから、頬に寄せた。涙が乾いているのか、ミミの頬はザラリと砂っぽかった。


「「いいの?」」

「いいよ」


ミミはどちらからともなく、あるいは、同時にほとんど同じ内容を話し始めた。


「本当はね、「今まで」は、別に「いつ死んだって」「「良かったの」」。でもね、君と話したり、くっついたり、「君をからかったり」「「死体を捨てたり」」、本当にね「「楽しかった」」。「こんな姿も見せていいんだって」最初はね、実は「緊張」してたんだよ? 気づいてた?「でも」君は何を見ても、君のままだった。「嬉しかったなぁ」。君は感情が薄そうに見えて「ちゃんと」わたしのことを見てくれる。「考えてくれている」。そういうことをしているうち「わかっていくうち」にね……」


ミミはピタリと同時に口を紡いでから「「怖くなったの」」と重ねた。


「どちらかが、片方が生き残ればそれでいいって」

「今まではそう思ってた」

「「増えちゃうんだから、それは仕方のないことって」」

「諦めてたの」

「諦めようとしてたの」

「「でも生きたくなっちゃった……」」


右手と左手で、ミミの頬を撫でる。ずいぶんと間の抜けた姿勢で。


「生きて」


これまたずいぶんと間抜けな、使い古されたような言葉だ。けれども、ミミはその言葉を待っていたのだと思う。

三日月のように微笑むと、ミミふたりはそのまま後ろへ下り、ベッドに倒れ込んだ。今まで、極力限界が来るまで起き続け、増やさないように心掛け、生きてきたのだろう。透明な布に優しく包まれたような、病的なまでに微動だにしない安らかな寝顔……。


「おやすみ、ミミ……」


瞬きをすると、ベッドには4人のミミが並んで眠っていた。









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