10話 無限増殖PART1

「やだやだやだやだやだやだ、死にたくない、やだ、やだ」

「うっさい、んだよっ、死ね、死ねっ」


馬乗りになったミミがもう一人のミミの眼球にボールペンを突き刺す。


「いたいいたいたいたいたいっ、やだ、やだっ、やだぁっ」


顔を大きく逸らしたからボールペンは中途半端にもう一人のミミの眼球に食い込んだまま、バネのように震える。ミミはもう一人のミミのアゴを掴み、ボールペンを一度引き抜いてから、首、首、首、左目、右目、首の順で刺した。


「おまえは負けた、んだ……、ろうが!」


息継ぎを繰り返しながら、ミミは攻撃を繰り返す。


「ぎゅるっ、ぎゅるっぎゅふ……」


首に刺さったボールペンがたんの絡まったような呼吸音に合わせて揺れ、止まった。死んだ方のミミの両目からは血と一緒に卵の白身のような濁った透明の液体が一筋流れ出ている。


勝ち残った、生き残ったミミの顔は蒼白だった。


「……寝たく、……寝たくなかったのに」


ミミは膝から崩れ、ボロボロと泣き出した。膝から崩れ落ちる人をぼくは生まれて始めて見た。


「増えたく……、なかった、増えたくなかったの……」


ぼくは屈み込み、ミミをなるべく優しく抱きしめた。ミミの背中はぬっとりと冷汗で濡れている。


「やだぁっ!」


ミミはぼくを突き飛ばした。どん、と尻餅をついたぼくは


「どうして、どうしてわたしを……寝かしちゃったの? 増えたくなかったの、今日は……、寝たくなかったのに」


ミミは手をグーやパー、たまにチョキも出しながら振り回し暴れた。


「……ねえ、本当に、本当に寝かせないで。もう増えたくないの」


ミミは尻餅をついたままのぼくに覆いかぶさり、首筋を甘噛した。小刻みに振るえていることが歯を通して伝わった。


「……わかった。寝かせないように頑張るよ」


ぼくはそう言ってミミの頭を撫でた。

それから学校にも行かず、二人で家から出ずにひたすら起き続けた。

ミミの身体は時間が経つごとに、少しずつ柔らかくなっていくように思えた。


「ミミ……?」

「んぅ」


名前を呼ぶと数歩遅れて返事が来る。


「ミミ……」

「……ん」


時計を見ないようにしていたからか、今、どれだけ起き続けているのかはわならない。こめかみと後頭部のあたりがチリチリと熱を持ち痛む。


「……ミミ」

「……」

「ミミ」

「ぅ」


それでもぼくは起き続け、ミミを揺すった。いつまでも続くはずはないとわかっていたけれど、それ以外にできることもない。


「ミミ?」


ぼくが目を離した一瞬に、本当に1秒か2秒で……。



――ミミは二人に増えていた。





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