8話 死体処理PART2
「両親が出張中なら、冷凍庫借りてもいいわよね?」
ぼくが「うん」と言うよりも早く、ミミはバラバラにした肉やら骨やらを冷凍庫に入れ、代わりにアイスを取り出した。
「コレ、食べながら通学しましょ」
ミミは約三分の一程度の肉と骨を通学鞄と、黒いツルツルとした素材のバッグに仕舞った。
「思ったよりも時間がかからなかった」
ぼくがそう言うと、ミミは料理の腕を褒められた女の子みたいに笑い、力瘤をつくった。
「途中、学校から3つ離れた駅で降りるから。定期圏内よね?」
「学校よりも先なら圏外だけど」
「大丈夫、圏内」
ミミは肉を捨てる池、骨を捨てる山があるのだと教えてくれた。
「池にはね、鯉、亀、鴨、鷺、それからよくわからない生き物がウジャっといるの。あっという間に食べてくれるから見てて爽快よ」
ぼくの鼻が鈍くなっているのか、思っているよりも死体は臭くないのか、そこのところはわからないけれど、電車に揺られている最中、不審な目で見られることはなかった。可能な限り真空パックやビニル袋に入れ、固く封をしたからかもしれない。
「この駅。降りるわよ」
ぼくはその駅に見覚えがあった。車窓から眺めるのではなく、降り覚えがあった。
「たしか、ここフジの最寄り駅だ」
「へえ、彼、ずいぶんと田舎に住んでいるのね」
全く関心がない、といった平坦な口調。ぼくとフジは親友、少なくとも友達といった間柄だが、ミミとフジは犬猿だ。わざわざフジの名前を出す必要はなかったな、と少し後悔した。
池は駅からわずか十分程度の場所にあった。水が黒く濁っているようにはじめは見えたが、ほれらは黒く肥えた鯉の群れだった。
「お食べ」
ミミはそう言うと手際よく肉を撒いた。鶏の唐揚げサイズの肉片が白っぽい脂を水面に滲ませては、鯉の口に消えていく。
「お食べ、お食べ」
鴨のいる方にポーンとミミが投げると、器用に嘴で捉え、飲み込んだ。一度も水面に落とすことなく。
「もうないわ、おしまい」
鯉は口を水面から出し、パクパクと喘ぐ。その口にミミは袋の底に溜まった血を流し込んだ。
「次はこっち」
池から三分ほど歩くと大きな、けれども、随分と古びた家があった。屋敷、と言っても良いかもしれない。瓦屋根の木造、たぶん2階建てだ。
「ここ裏山に捨てるの」
ほとんど屋敷の庭と地続きの小さな山に、ぼくとミミは入った。大して登りもせず、また、大して木々が生い茂ってもいない場所でミミは骨をバラ撒いた。
「ここで本当にいいの?」
「ここじゃなきゃダメ」
微妙に噛み合ってない返事を聞き流しながら、ぼくも骨を撒いた。撒いた、というよりも、置いた。肉と違ってそれほど細かくはできていないため、骨骨しい見た目の数々が地面に転がる。
「うん、これでいいわ。あっ」
ミミはポカンと口を開け、ぼくの目を見つめた。
「アイス食べながら通学したかったのに。忘れてたわ」
床の上でゆっくり溶けていくアイスを、ぼくは思い浮かべた。
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