第10話(3)からくり忍者

「ふむ……アンタは黒脛巾組か……」


 黒い脛巾を見ながら、藤花が呟く。


「ああ、そうだ」


 黒脛巾組と呼ばれた男が頷く。


「この場所をしっかりと警戒しているとはね……」


「国境を越え、白石城下で姿を消したという報告を受けてから、各所の警戒は大いに強めた。まさか谷底から駆け上がって来るとは思わなかったが……」


「上手いこと意表を突けたと思ったんだけどね……」


「まさかというところまで考慮に入れておかなければならないからな」


「厄介なことだよ……」


 藤花が苦笑交じりで肩をすくめる。男が告げる。


「城には入らせん。この門の前で必ず仕留める」


「こう言っちゃあなんだけど、並の忍者ではもはや私たちの相手にならないよ?」


「それはよく知っている。同胞たちが無残にやられたからな……」


「それならば、ここはひとつ、退いてくれないかな?」


「そういうわけにはいかん」


「強情だね……意地を張ってもロクなことにはならないよ?」


「意地ではない、勝てる算段がきちんとある」


「なに……?」


「……」


 男が右手をスッと上げる。


「!」


 黒い忍び装束に身を包んだ者たちが藤花たちを包囲する。


「むっ……」


「こ、これは……」


「か、囲まれた⁉」


 驚く楽土と技師に対し、藤花はわずかに顔色を変えた。


「仕留めろ!」


「……!」


 男の号令で忍びたちが一斉に手裏剣を投げつけてくる。


「むっ!」


「わっ⁉」


 楽土が声を上げる。


「お二方! 少し身を屈めてください! うおおっ!」


「‼」


 楽土が盾を勢いよく振り回し、手裏剣を弾き飛ばしたり、方向を変えたりする。


「む……盾で弾き飛ばすだけでなく、風圧で手裏剣の軌道を変えたか……」


 男が目を細める。


「手裏剣くらいならばなんとかなりますよ……」


 楽土が呟く。


「それならば接近戦だ!」


「……‼」


 忍者たちが一気に距離を詰めてくる。忍者が忍び刀を振りかざす。


「ふん!」


 牛から降りた藤花が伸ばした爪でその刀を防ぐ。


「……」


「なかなか鋭いが……」


「! ! !」


「はっ! はっ! はっ!」


 忍びの連続攻撃を藤花は凌いでいく。


「………」


「くっ!」


 その一方で、楽土が技師を守りながら忍びを相手にしている。


「手こずっているようね、楽土さん!」


 藤花はあえて軽い声色で尋ねる。


「こ、この忍者たち、なかなかやります! 動きにほとんどの無駄がない!」


「それはそうでしょうね! だって人間じゃないもの!」


「え⁉」


「ふん、気が付いたか……」


 指示を出していた男が顎の辺りをさする。


「に、忍者のからくり人形⁉ 各地で製造が進んでいるというのは噂では聞いていたけど、まさか仙台藩がここまでの数を生産しているとは……」


 技師が驚愕する。


「南蛮の協力もあったんじゃないのかい?」


「そうか、技術供与と資金提供……!」


 藤花の言葉に技師が納得したように頷く。


「ある程度の事情は察しているようだな……尚更生かして返すわけにはいかん……!」


 男が語気を強める。楽土が藤花に問う。


「ど、どうしますか、藤花さん⁉」


「数の上でも不利なわけですからね……」


「ここはなんとか退いて……体勢を立て直してから……!」


「いやいや、そういうわけには参りません……よっと!」


「うおっ⁉」


「うわっ⁉」


 反転した藤花が楽土と技師の乗った牛のからくりを強引に押す。作動した二体のからくりは門の方に勢いよく突っ込み、門をぶち破って、城内に潜入する。藤花が呟く。


「こうなったらなりふり構ってはいられない……」


「と、藤花さん!」


「そのまま先に行ってください! すぐに追いつきますから!」


 藤花が楽土に声をかける。


「な、何体か、山伏と女の方を追いかけろ!」


「そうはさせない……」


 門の前に藤花が立つ。からくり忍者たちが立ち止まる。男が驚く。


「ま、まさか、この数を一体で相手にする気か⁉」


「そのまさかだよ」


「な、舐めるなよ! か、かかれ! さっさと始末しろ!」


「………!」


「はっ……」


 藤花は右手で髪をかきあげる。男が叫ぶ。


「髪に仕込んだ針を飛ばすのは知っている! むっ⁉」


 からくり忍者たちが銃に撃ち抜かれて次々と倒れる。


「ふっ……」


「ひ、肘鉄砲か!」


「そう、針に注意が行ったところを右肘の銃が撃ち抜く。銃弾は針より速いからね。この二段構えにはそうそう反応出来ないだろう?」


「ぐっ……」


「ほう、何体かはまだ動けるか……ならばこれで仕留める!」


 藤花は鋭い爪で動きの鈍くなったからくり忍者たちを切り裂いていく。


「む、むう! こうなったら止むを得ん! 城内に誘い込め!」


「勝手知ったる場所で戦おうって? それを許すとでも?」


「我々には奥の手がある! それを発動させろ!」


「…………!」


 からくり忍者たちが黒い脛巾から煙を出して、空に高く舞い上がる。藤花が面食らう。


「黒脛巾に機動力を増す仕掛けが⁉」


「ここは一旦退く! 城内が貴様の墓場だ! ……がはあっ⁉」


 背を向けた男が倒れる。首を切られたからである。からくり忍者たちも同様に倒れる。


「……奥の手はこっちにだってあるさ」


 藤花は弧を描いて戻ってきた刃付きの小皿を手で受け止め、膝小僧の辺りにしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る