第5話(4)夜中の決着
「くっ……」
「もらった!」
緑の着物の女性が蔦を生やし、楽土を再び縛り付ける。
「ぐっ……」
楽土は手足だけでなく、首も縛られる。
「どうだ、今度こそねじり切ってやる!」
「……ふん!」
「なにっ⁉」
「だあっ!」
楽土が強引に首を振る。緑の着物の女性が引っ張られる形になり、地面に叩きつけられる。
「がはっ⁉」
「ふう……むん!」
蔦が緩んだ隙を突いて、楽土が蔦から逃れる。女性が舌打ちする。
「ちいっ……」
「……」
楽土が女性に近づく。女性が体勢を立て直し、右手を横に薙ぐ。
「『草薙』!」
「む!」
楽土の服が少し破ける。女性が笑う。
「ははっ、どうだい⁉」
「恐ろしく速い手刀……⁉」
「ほう、見逃さなかったかい……」
「そういう攻撃方法もあるんですね……」
「奥の手は取っておくものさ! それっ!」
「……!」
「そらっ!」
「……‼」
楽土は攻撃を受けながらも、じりじりと女性に近づく。
「そ、それっ!」
「……確かに鋭いですが、それがしならば耐えられないほどではないです……。そろそろおしまいにしましょう……」
「ふ、ふん! これが本当の奥の手だ!」
女性が左手も右手と一緒に薙ぐ。
「……むん!」
「⁉」
楽土は盾を突き出す。女性の両腕ははじけ飛び、楽土の盾が女性の体を貫く。
「! お姉ちゃん、やられてしまったかい……」
老人が悲しそうな表情を浮かべる。
「楽土さん、手は出したくないとかなんとか言っていたのに……まあ、盾でもって防いだだけと言えば、そうか……」
藤花はとりあえず納得する。
「……零号を討ち取れたからそれで良しとしようか」
「ちょ、ちょっと待ちなよ、まだ討ち取ったというには早いんじゃないの?」
藤花が問う。
「針は見切った。目での威嚇はあたしには通用しない。爪は折った。手詰まりだろう?」
「知ったような口ぶりだね……」
「はっ、それも当然さ……」
老人が笑みを浮かべながら呟く。
「当然?」
藤花が首を傾げる。
「あんたのことはよく知っているんだ」
「へえ……」
「昔からね……」
「ん? 昔から?」
藤花が顔をしかめる。
「そうさ、あたしが童の頃から……零号、あんたのことは……」
「あー! あー!」
「⁉」
藤花が突然叫び出したため、老人が戸惑う。
「聞こえない! 何も聞こえない!」
藤花が両耳を抑える。
「いや、あんたの噂はこの太平の世になるずっと前から……」
「もうお眠の時間よ! おじいちゃん!」
「!」
老人が崩れ落ちる。藤花の腕のあたりから煙が立ち込める。
「ふん……」
「ひ、肘から鉄砲?」
「ほう、よく分かったね」
「そ、そんな仕込み武器は聞いていない……」
「そりゃあ、滅多に使わないからね、着物に穴が空くから……」
「ははっ、珍しいものを見たのか……見えないけどね……」
老人が大の字になって倒れ込み、動かなくなる。
「藤花さん。からくり人形の刺客でしたね」
「ええ、ですが、小手調べのようですね……」
「小手調べですか?」
「それほどの強さは感じませんでした。そうでしょう?」
「まあ、それは確かに……」
楽土が頷く。
「どうせ番号ももらっていないでしょう……」
「草! 石!」
眼鏡の女性が動かなくなった女性と老人に声をかける。
「……ほらね」
藤花が楽土に目配せする。
「確かに聞いたことのない名前の人形ですね」
「一文字ですしね……私たちの様に二文字与えられていないということは半人前です」
「半人前……」
「……笑うところですよ」
「ええ?」
「冗談です」
藤花が笑う。
「は、はあ……」
「長居は出来ないと思いましたが、今日の内にここを発った方が良いかもしれませんね」
「あの女性はどうします?」
楽土が眼鏡の女性を指し示す。
「連れていきます」
「ええっ⁉」
「技師だというなら、修理などで役に立つでしょう。楽土さん、首根っこ掴んででも連れてきてください。私は馬を取りに行きます。街の出入り口で会いましょう」
「は、はい……」
しばらくして、藤花と楽土、眼鏡の女性が合流する。眼鏡の女性が尋ねる。
「殺さないのかい?」
「技師なら私たちの体に興味があるんじゃないのかい?」
「ああ、大いにね」
「即答かい、気に入ったよ。それじゃあ、行きましょうか」
「えっと、関所の方は?」
「奥の手を使います。少々もったいないですが……」
「! ああ……」
藤花が銭の入った袋をじゃらじゃらとさせる。楽土は賄賂を渡すということを悟った。
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