第5話(1)藤花反撃

                  伍


「……」


 首を絞められた藤花がぐったりとする。


「ふん、くたばったようだね……」


 緑の着物の女性が笑みを浮かべる。


「………」


「って、言うと思ったかい?」


 女性が首をすくめる。


「…………」


「はっ、聞こえないふりをしているのか? まさか、天下の零号がこれくらいでくたばるわけはないよね」


「……………」


「体ごと捻り潰す……!」


 女性が蔦に力を込める。


「ぐっ……」


 藤花の声が漏れる。女性が笑う。


「やはりまだくたばってなかったか。首をねじり切ってやる……!」


 女性がさらに力を込める。


「うぐっ!」


 藤花が顔を引っ張り上げられるような形になる。


「ふふっ……」


「ぐうっ……」


「へえ、苦しさは感じるのか……」


「ぐうう……」


 藤花の顔が歪む。


「ははっ、その顔、いいじゃないか!」


「ぐぐっ……」


「女ぶりが上がっているよ!」


「うぐっ……」


「さっきから、ぐぐっとか、うぐっとか……なにか気の利いたことは言えないのかい?」


「あぐっ……」


 女性がややずっこける。


「そういうことじゃないんだよ」


「………………」


「まあいい、お遊びはそろそろおしまいにするかね」


「……ならばこちらの番だね」


「!」


「……ふん!」


「がはっ⁉」


 女性の体や片目に針が突き刺さる。思わぬことに女性は体勢を崩してしまい、蔦に込めた力が一気に緩まる。


「ふん!」


「むうっ⁉」


 藤花が首や手足を縛っていた蔦を振りほどき、自由になる。藤花は首や手首を抑えながら低い声で呟く。


「好き勝手にやってくれたね……」


「ぐっ……な、なにをした⁉」


 女性が片目を抑えながら叫ぶ。


「針を飛ばしたんだよ、それくらい分かるだろう?」


 藤花が首をすくめながら答える。


「そ、そんな! 髪の毛は振り乱せなかったはず!」


「毛は他にもある……」


「え……」


 女性の視線が藤花の下半身に向く。


「ち、違う、そこじゃない!」


 藤花は慌てて下半身を隠す。


「ど、どういうこと?」


「これだよ、これ!」


「?」


「これ!」


「……?」


 女性が首を傾げる。


「察しが悪いね~! これだって!」


 藤花は自らの目を指差す。目を多くまばたきさせる。女性はハッとなる。


「ま、まつ毛⁉」


「そういうこと」


「まばたきでまつ毛に仕込んだ針を飛ばしたのか……そんなことが……」


「出来るんだな、これが」


 藤花は笑みを浮かべる。


「ば、馬鹿な……」


「馬鹿はこっちの台詞だよ」


「む……」


「アンタとはくぐってきた修羅場の数が違うんだ」


 藤花が胸を張る。


「むう……」


「詰めが甘かったね、私に顔を上げさせるべきじゃなかった」


「むうう……」


「更に言えば、痛めつけて楽しんだりせず、さっさと仕留めるべきだった」


「ちっ……」


 女性が舌打ちする。


「所詮、アンタのような新米からくり人形さんとは役者が違うってことだ」


「な、舐めるな!」


 女性が声を上げる。藤花がため息をつく。


「はあ……」


「な、なんだ⁉」


「だから、それもこっちの台詞……舐めてかかったのはそっちでしょ。相手の台詞を喋っちゃうなんて、そもそも舞台に上がる資格すらないね」


「く、くそっ!」


「ははっ、その捨て台詞は良い感じだね」


「おのれ!」


「‼」


 女性が両手をかかげると、蔦が伸びて、藤花に襲いかかる。


「今度こそ仕留める! 油断はしない!」


「……分かっていないな」


「⁉」


 蔦を藤花の鋭く伸びた爪が切り裂く。


「私らの世界で、次や今度こそって言葉は無いも同じなんだよ……!」


「つ、蔦を切った⁉」


「これくらい造作もないことだ……さて!」


「うっ!」


「反撃といこう……!」


 藤花が一瞬で女性との距離を詰め、爪で首を切ろうとする。


「『草生える』!」


「むっ!」


 床に大量の草が生え、それに藤花は足を取られる。女性は素早く後退する。


「ここは撤退だ!」


「逃がすか! ……その前に服を着るとするかな」


 藤花は自分の体を抑える。

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