第50話 那由多

 人生は、一度きり?

 この期に及んでそれを言いますか?

 パパが喰らったで、何人の〈あたし〉を無駄遣いしたのですか?

 黄色いあたしを捨てろと言ったのはパパでしょう。

 パパが小説であたしに伝えたかったように、あたしたちの心は、あまりに弱いのです。予備を用意せざるを得ないのです。

 地球人の人生はもはや一度きりではない。

 尊くもない。

 ただ、尊いのかもわからない、わからないこそ大きく見える死が、平等に備わっているだけなのです。

 こんなにもたくさんの、幾那由多もの〈あたし〉がいて、いくらでも失敗しても、「まぁ、別に次があるからいいや」と思えるこんな今の世界で、そんな風に命を燃やせると思いますか?


 ――え、いや、えーっと。わかんない。


 この世界は、本当に一生懸命生きる価値のある世界ですか?


 それを尋ねると、パパはいなくなりました。

 いえ、消えたのは〈パパa〉、だったんでしょうか?

 人生は懸命に?

 そんなのもう……たった一人きりのあたしでどう生きたらなんて、忘れてしまいましたよ。

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