第49話 行間に潜ませた〈死〉

 パパは言っていることはメチャクチャですが、言いたかったことだけは、小説にしっかり現れていたのです。

 死が書かれていない小説の行間に潜ませた〈死〉をあたしに読ませ、死はどこにでも当たり前にあるのだと、警鐘を鳴らしていたのです。

 死を書かないことで、あたしは死を意識せざるをえませんでした。

 パパは、口では嫌悪しながら、いわば、あたしに地球人がやっているのと同じような、死の予行練習をさせていたのです。

「なゆたの心の解体をしないと、すぐ死んじゃうよ」とはっきり告げていました。

 あたしを、救うために。


 ――とにかく、一度きりの人生だ。しっかり生きなさい。それだけ。


 は?

 せっかく、納得できそうだったのに。

 パパのことを好きになれそうだったのに、その言葉は、あたしを惑わせました。

 無責任さに吐き気がします。

 人生は、一度きり?

 この期に及んでそれを言いますか?

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