第39話 〈私〉の増殖、解体を推し進めヨ。

 青いものは拒んではいけない。と。


 ……パパ?


 ――きょとんとするな、助けにきたんだ。もっと他人任せでいい。心を楽にしなさい。そのためには、青いものは拒んではいけない。


 わかりました。

 逆らうことはできません。

 あたしも一つ、青いバナナ――いえ、青いものをもらい、食べることにしました。

 口に放りこみ、舌でねぶるように、中で潰しました。

 血が黄色から青く染まっていき、鼻の奥があつくなって、それから、全身の血管が一本に繋がっているのだと、はっきり知覚することができるようになりました。

 血に名前をつけようと思いました。

〈パパ〉です。

 パパが、はげしく体中を流れていくのは、きもちがいい。

 脳がすこし、大きくなった感じがします。


 ――黄色いなゆたから、青いなゆたにフェーズを移行できたようだね。地球人みたく、軽薄な、無責任になれたはずだ。よしよし、これでもう、悩まずにすむね。


 あたしの頭のてっぺんの穴から、お姉様が教えてくれた言葉が、漏れていきました。


『へへ』『へへ』『へへ』


 人生は一度きりで尊い?

 そんな考え方、今のこの地球では通用しないのです。

 あたしの心を無限に増やし、肉体の死を待つしか、もはやこの世界に存在する方法はないのですから。


 ――〈私〉の増殖、解体を推し進めヨ。


 解体?

 あたしは、はっとします。

 解体という言葉は、もしかしたら、あの金歯のおじいさんが言っていた空白に埋まっていたのかもしれません。

『緊張しとるんか? あんなぁ、おじさんなぁ……解体を推し進めヨ……パン食う?』

 おじいさんが意図しない箇所に、ふと宇宙(パパ)が、そんな言葉を滑り込ませてきたのかも、しれません。

 あたしは、サルからバナナを全て奪いました。吐き気と戦いながら、無理やり食べ続けました。

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