第36話 おかしな匂い


 職員室のデスクの間をぬって、サルは手慣れた様子で掃除機をかけます。

 彼に何か話しかけようと思いましたが、掃除機の耳をつんざく音で、すっかり閉口してしまいました。

 あたしはふと、おかしな匂いを感じ、足を止めました。

 空豆みたいな、湿った青臭いにおいがします。

 机の下のゴミ箱からにおっています。

 中には、くたびれた、薄いゴムのぬけがらが入っていました。

 使用済みのコンドームです。

 欲望は地へと沈みますが、においは立ち上るのです。

 ここで誰と誰がどんな情事を、と想像は膨らみますが、肝心のセックスがあたしには何かわかりません。(パパのせいです)

 なにをどうやったら、どこからどこまでが、セックスなのかが、わからないのです。

 裸で抱き合ってから、我々は何をすべきなのでしょう?

 つまんでコンドームを持ち上げると、ぼた、と薄い黄色の液が垂れました。

 その雫を反射的に指先ですくいました。

 サルが驚いた様子で、こちらに駆け寄ってきました。

「なにやってんの」

「これ、せいしですか?」

「だろうね」

「はじめて、見ました」

 考えてみれば、あたしは精液を知りません。

 こんなものを飲む人がいるなんて不思議です。

 指先からこぼれ落ちそうな精液を見て、反射的にちろりとなめてしまいました。

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