第34話 降伏セヨ

 薄い水色の作業着を着た〈サル〉が、部屋に入ってきました。

 サルはあたしに気付くなり、顔をしかめます。

 狭い額に汗が浮かんでいて、不快です。

「用事だけ言えよ。昼休み、もう十五分しかないんだ」とサルは言いました。

「お姉様に、中絶しろって言ったんでしょう」

「〈青子〉に? そんなこと言ってねーよ、おれは結婚をずっと考えてたんだから」

 お姉様は〈青子〉という名前だそうですが、しっくりきていません。

 別の人の話をしているような気がしてしまいます。

「でも、お姉様はかなしそうでした。なぜ、でしょうか?」

「そらぁ、この〈イエロー〉がなくなるからじゃねーの」

 はい?

 あたしが不思議そうにしていると、サルは「この学校潰れるんだよ」と簡潔にとんでもないことを言ってくれました。

「〈イエロー〉は、宇宙人に狙われてんだってよ。校長にズビズバ、『降伏セヨ』テレパシーが届いてるらしいから」

 その言葉を聞いて、あたしは驚くべきか、笑うべきか、わかりませんでした。

「どうして、狙われているのですか?」

「そりゃあ宇宙人は、地球を狙うって相場が決まってんだろ。だから校長はこの建物を潰して、宇宙人をせん滅するためのレーザーを撃つ、でっかい砲台を作るんだと。コンピュータで制御すれば、全自動でお掃除完了ってな。はは、うちの校長、イかしてるよな」

 サルは、校長室の掃除をしている際に建物の解体にまつわる書類を見つけ、それを知ったのだと説明します。

 そんな事情はこの際どうでもいいのです。

「お前にとっては好都合だろ? ずっとやめたがってたじゃんか」

 そうです。

〈イエロー〉がなくなれば、あたしはここから解放されます。

 ずっと逃げ出したかったのに、どうしてだか、ざわめきがとまりません。

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