第24話 群れをなしているのか、いないのかわからない羊
我にかえると、なぜだか額から血が滴っていました。
無意識のうちに、自らの頭をパイプベッドの金具に叩きつけていたのです。
緩んだねじに額をひっかけてしまい、血が出ました。
黄色い血。
あたしにはそう見えました。
そう、あたしは何色かはともかく、血が通ったいきものです。
もしかしたら地球人のそれとは成分が違うかもしれません。
今、流しているのは絵の具で色をつけた水かもしれない。
それでも、あたしは生きている。
人間と同じように生きているのに、絵の具で色をつけた水が通っているあたしは、一体何者なんでしょうか?
出血すればするほど血潮の熱さが心地よく、もう一度頭を打ちつけようとしたところで、取り押さえられました。
部屋に何人もの地球人がいました。プライバシーも何もあったものではありません。
あたしはすぐ、〈カウンセリングルーム〉に強制的に連れていかれました。
そこは、壁一面に外国の高原の写真がぐるりと張り巡らされた、こじんまりとした個室です。
写真の高原には、神経質そうな羊飼いと、黄ばんだごわごわとした毛の羊たちがいます。
羊たちはしんどそうに俯き、群れをなしているのか、いないのか、ギリギリの距離感で点在しています。(互いに区別はつくのでしょうか?)
ベッドの上には寝そべった女性がいました。
全体にバランスよく、柔らかい脂肪がつき、まるで高名な画家が描く裸婦のようです。
彼女は、あたしがこの施設で唯一心を許しているお方です。
〈お姉様〉と呼んでいます。
カウンセリングなんて名前が付いていますが、今まで一度もお姉様に相談事をしたことはありません。
ただ一緒にいられさえすれば、それだけで心が安らぐのですから。
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