第23話 野生にとっての死

 手紙の最後には、「」と付け加えられてありました。

 宇宙船であるはずの山々はそのまま残っており、どうやって帰ったかは謎です。

 ただ一つ、パパには一切連絡がつかなくなりました。

 ただでさえ嫌いだったこの星に、完全に一人きりにされてしまいました。

 パパとの想い出が、蘇ってきます。(まるで、物語のようでした)

 想い出の中では、パパが輝いて見えました。

 もしかしたら、パパが死んだとしても、こんな気持ちになるのかもしれません。

 ……いえ、もはやあたしの中では、死んだも同然です。

 死者がえらい、尊いという考え方は理解できずとも、何より死者に想いを馳せると、自分まで素敵になったような気がしました。

 地球の人たちは、あたしよりも深く理解しているのでしょうか?

 あたしが買い被っていただけで、実際、地球人は、死について、あたしと同程度の理解しかしていないと。

 死者の観念そのものを丸々引用(死者はえらいという観念は、死者から受け継いだもののはずですから)しているうちに、〈死者はえらい〉のではなく、〈シシャハエライ〉という、丸暗記が行われ、意味が喪失しつつあるのです。

 世界でいちばん最初に死んだ人……そして、その死んだ人を見た人は、一体どう思ったのでしょうか?

 えらいと、思ったのでしょうか?

 動物は、死んだ仲間や、他の生物の死をどう思うのでしょう?

 ただ、「いなくなった」と思ったのではないでしょうか?(あるいは、何も思わないのでしょうか?)

 そこから、同じ想いが引き継がれてきたようには思えません。

 伝言ゲーム的に、ズレた解釈が伝わってしまったのでしょう。

 難しく考え過ぎると、難しくなってしまいますし、考えれば考えるほど、気持ち悪くなります。

 あたしは一度〈死〉を忘れるため、別の想い出を――パパと黄色いスイカを食べたことを必死に思い出しました。

 パパが「お前、黄色いスイカ派か」と喜んでいたのをよく憶えています。ですが、どこか寂しそうでした。


 青いものは拒んではいけない。


 パパは、「いいかい。黄色いものを大切にしたいのはわかる。でも、いつか決別しなくてはいけないんだ。黄色いものと入れ替わりで入ってくる青いものだ。青いものだけは拒んではいけない。青いものがお前を救う。いいかい……」と狂ったように言い続けました。

 それ以上、パパのことは思い出せませんでした。

 あたしには、想い出がほとんどありません。

 ……誰かあたしに、揺るがない想い出を、ください。


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