第16話 死から最も遠い生き物

 ……死んだら、こんなあたしもああいう風に褒めてもらえるのでしょうか?

「あたしも死んだらえらくなれますか?」と女の子に尋ねました。

 女の子は顔を歪めて笑って、すぐ、あたしをまた殴り始めました。

 彼女のポケットから携帯電話が落ちました。

 そこには、小さなひよこのキーホルダーがついていました。

 かわいい。

 死から最も遠い、幼すぎる生き物を見て、あたしはそう感じました。

「なれねぇよ。死ね、宇宙人は死ね。死ね」女の子は言いました。

 そんなに念を押さなくても、このまま殴られ続けたら、きっと死んでしまいます。

 女の子は、あたしが宇宙人であると自己紹介したのが、そんなに気にいらないのでしょうか。

 調和が崩れるのが、怖いのでしょうか。

 その子を皮切りに、次々と女の子たちが集まってきてあたしを取り囲みました。

「ウソだと認めたら、もう殴るのはやめる」と女の子たちが口々に言うので、

「ウソです」とあたしは答えました。

 もちろん空気を読んだのですが、女の子は殴るのを辞めません。

 そのうち、関係ない女の子が関係ない女の子を殴り始め、仲良く円になり、隣の子を殴るといった始末になってしまいました。

 女の子が殴るのをやめてくれないので(もはや、それが最初の女の子なのかさえ、わからないのですが)、あたしは本当に「これはもしかしたら、死ぬのかもしれない」と感じ始めました。

 「黄色いもの」をそっと握りしめながら、思うのです。  

 痛いというのは、こういうことなのでしょうか。

 苦しいというのは、こういうことなのでしょうか。

 死とは、これを乗り越えた先にあるのでしょうか。

 ……なるほど、この苦しみを乗り越えた末にようやく、死ぬことができるなら。

 それならば死者は、敬意を払われるにふさわしい存在なのかもしれません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る