第15話 尊い死者たちが支配する世界

 あたしはそうして転校生として自己紹介をするなり、一番前の席の女の子に馬乗りになられました。

 おかしなことは何も言っていません。

 彼女は表情を変えず、あたしの頬を殴ります。

 あたしがかけていた瓶底メガネが飛び、視界がぼやけました。

 そこにいたみな、輪郭を失い、どんな宇宙人より、宇宙人らしく映りました。

 女の子はまくしたてるように言いました。

「お前は頭がおかしい」

「宇宙人ならば、死ね」

 と。

「〈死ぬ〉とは、なんですか?」あたしは尋ねました。

 それは、ドラマや映画、ニュースにだって度々出てきた言葉でした。愛やセックス以上に大切にされているように思えた言葉です。

 きっと大切だから、あんなに繰り返し語られるのでしょうから。

 この地球は、死(死者)によって作られ、支配されていることは明白でした。

 死は、生命活動が停止することなのはわかるのですが、人間にとっては、もっと大きな意味を持っているような言葉だと思いました。

 地球のルールは彼ら(死者)が作ったもので、おかげで意図のわからないものが多々残り、そのくせコミュニケーションが取れないので、容易に変更できません。

 そして、心を奪っていくのです。

 これが支配と呼べずに何と呼びましょうか。

 あたしはこのとき、パパの小説に覚えていた違和感に気付いたのです。

 パパの小説では、誰も死なないし、「死」の「し」の字も出てこない。(こんな大切な言葉が、たった一文字なんて、おかしいんじゃないでしょうか?)

 それは、意識して避けているのか、パパが死について一度も考えたことがないのかは、わかりませんが。

 あたしが一番おかしいと思うのは、地球人は、一方的な支配をする死者を、恨むようなことはしないことです。

 それどころか、死んだ人間はえてして、尊い――いや、むしろ〈えらい〉存在として語られました。

 理由はわからないのですが、この星の人々の回路は、〈死者=(は)えらい〉というコード化がなされているのです。

 ……死んだら、こんなあたしもああいう風に褒めてもらえるのでしょうか?

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