第14話 おかしなことは何も言っていません

 地球を脱出する手立てを考える間、あたしたちは世間様にはあまり騒がれないよう、静かな住宅街のマンションの一室で暮らしていました。

「世間に出るための準備など取り越し苦労だったね」なんて笑いながら、パパが故郷に帰るめどを立ててさえくれたら、それでよかったのです。

 しばらくは、平穏な日常を過ごせていました。宇宙に帰るまで、このままの、よくわからない生活が続くはずだったのです。

 ですが、それも長くは続きませんでした。

 パパがある日突然、「〈ジョシコー〉に行きなさい」と言い始めたことが、崩壊のきっかけでした。

 いつまでたっても帰る方法が見つけられず、ついに、痺れを切らしたのです。

「この星はね、〈ジョシコーセー〉という輩が牛耳っているんだそうだ。世間の流行、民間の風俗、みな、彼女たちが主導権を握っている。地球の状況を知るにはうってつけだ」

「ですがパパ。あたしが学校に通うなんて、想像できません。知らない誰かと、一緒に過ごすなんて」

「そうも言ってられない。今までぼくはずっと〈オジサン〉というのが星を動かしていると誤解して(なんの脳もなさそうだし、なんだかくさい! おかしいと思ったんだ!)、地域のパパさん会に必死こいて参加してしまったんだ。時間の無駄だったんだよ」

「……」

「……不安かい? 大丈夫、パパも一緒だから、安心しなさい」

 あたしはそのとき地球の年齢で二十四歳、パパは五十四歳でした。

 あたしとパパは、その日から平凡なジョシコーのジョシコーセーとなるべく、ふつうの〈ジョシコー〉に入学しました。(もちろん、〈イエロー〉とは別の施設です)

 しかしまず、ジョシコーセー姿のパパは、オマワリサンに捕まってしまいました。(幸いにも後々、パパがとびきりのバカだとわかるなり、解放してもらえましたが)

 一方、一人きりにされたあたしは、恐る恐る教室に入りました。

 そして、教師に促されるまま、「なゆたです。宇宙人です」と言いました。

 あたしはそうして転校生として自己紹介をするなり、一番前の席の女の子に馬乗りになられました。

 おかしなことは何も言っていません。

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