第12話 それはなんですか?

 パパの書いた小説は、いつもよくわりません。

 ほかの作り話とは、少しだけ違いました。

 一見すると何か意味がありそうなことは書いてあるのですが、文脈的繋がりに欠き、普通の物語に出てくるヒキコモゴモは登場しません。

 物語上で、度々交される感情、やりとりの全ては、ヒキコモゴモと呼ばれるようです。

 これは作り話に限らず、現実でもとり交されることのようですが。

 パパの小説では大抵、男の人と女の人が、喋りながら、ただ裸で抱き合い、何か食べています。

 人がいて、会話を交わすだけで、誰も大切そうなことも言わないし、たまごも産まず、あとは、そこにいるだけ。

 その一見何も起こらないその小説には、とても大切なことが書かれているのだと、パパは言いました。

「とにかく大切なのは、空気を読むことだけだ。それ以外は、知らなくてよろしい。パパの本を読めば、自然とわかるようになるから。白いとこまでしっかりね」

 パパの本を一生懸命めくり、文字が書いていない場所を読むことで、意味や文脈を探り続けました。

 そのおかげで、〈空気を読む〉ことには相当自信がつきました。

 ただ、パパはヒキコモゴモの中で重要視されていた、「愛」や「セックス」というものについてはきちんと教えてくれませんでした。

 パパの小説にはそれが書かれているようにも見えますが、なにか、足りないのです。

 あたしは何度も、「それはなんですか?」と尋ねました。

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