第11話 生体サンプルとしての〈ブンガク〉
あたしは、地球の教育機関である(そこで教育を受けることが当たり前といわれています)小学校、中学校には行きませんでした。
きっとパパは、あたしが周囲の影響を受け、地球に染められるのが怖かったのでしょう。
地球人として過ごすのに不足がないように、家にいながら、パパから地球の言語とマナーだけは学びました。
地球人の生態サンプルとして、〈ドラマ〉や〈映画〉、〈小説〉と呼ばれる、人間が作った〈物語〉をたくさん観賞しました。
地球人はときに、そこに出てくる、まったくの別の個体に自分との共通点を探すのです。
あるいは関係あることからまったく自分を遠ざけ、感銘を受け、驚き、楽しむのだと言います。
まったくの他人となると、感情移入するには相当の〈感受性〉なるものが必要となります。
あたしにとっては、それらは体験というより、あくまで地球に適応するための、不随意的反射を身につけるものでした。(意味はわからずとも、挨拶されたら挨拶を返す、相手が微笑めば微笑む、というようなミラーリングが必要なのです)
一番驚いたのは、この作り話を考える、小説家、脚本家などと呼ばれる人々の周囲からの扱いでした。
大抵、〈大先生〉などと呼ばれ、さも重要な存在とされているのです。
人々は、物語を消費することを愉しみ、似たような話が既にあるにもかかわらず、その差異に喜びます。(「似ている? どうでもいいから、腹が満たされればいいのだ」と言わんばかりに)
先生を吊るし上げ、首を絞め、「もっと作れ、もっと作れ」と騒ぎ、「足りない、まだ、足りない」と、物語をむさぼるのです。
その姿は、異常に映ります。
あたしの故郷には、そんな職業はないでしょう。
もしあったとしたら、敬遠され、押し付け合いになるに違いありません。
地球以外の星で、物語を語れば、作り話だと笑われるか、単なる嘘つき扱いされる場合だってあるのですから。
先生とは、この星でもっとも大変で、厳しい労働を強いられているように、あたしには映りました。
実を言うと、パパも〈先生〉の一人でした。
小説を書いています。
〈ブンガク〉というものを、専門にしているのだそうです。
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