第10話 不快だけど、あたしの場所と思えるところ

 あたしは幼いころ、パパから、「黄色いもの」を受け取りました。

 地球には存在しない、パパの故郷の物質らしいのですが、それ以外は説明してもらえません。

「説明しようがない。なぜなら、黄色いものは最小単位だからね」と、パパは言っていました。

 大きいとか小さいとか、固いとか柔らかいとか、においはどうだとか、そういう要素はまるでないのです。

 スイカであるとか、ひよこであるとか、名前や意味があるものであれば、パパからの密かなメッセージがこめられているとも思えるのです。

 ですが、黄色いものはなんだかまったくわからない。

 ただ黄色くてあたしの掌におさまるのです。

 黄色いものはあたしが宇宙人であることの象徴であり、あたしが世界に触れあう前の穏やかな生活の象徴でもあります。

 なにか迷ってしまったとき、それを握り締めていると〈恒常性〉みたいなものが生まれる気がします。

 あたしはあたしで、あたし以外の何物でもない。

 宇宙人であるとか地球人であるとか以前に、あたしである、というように。

 あたしがあまりに黄色いものに依存するので、パパは心配そうに「黄色いものは、いつか手放さなければならない」と言いました。

「黄色いものは、青いものに出会ったら、手放さなければいけない。しかし……」

 黄色いものはもちろんのこと、それ以外の黄色いものも(それは、意味が存在する、菜の花、おしっこ、怪しい空模様など)あたしのこれまでを、形作った輪郭のように思えます。

〈イエロー〉はたしかに不快な場所ではあるのですが、その名前のおかげで、あたしの延長にあるものだと思えました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る