第10話 不快だけど、あたしの場所と思えるところ
あたしは幼いころ、パパから、「黄色いもの」を受け取りました。
地球には存在しない、パパの故郷の物質らしいのですが、それ以外は説明してもらえません。
「説明しようがない。なぜなら、黄色いものは最小単位だからね」と、パパは言っていました。
大きいとか小さいとか、固いとか柔らかいとか、においはどうだとか、そういう要素はまるでないのです。
スイカであるとか、ひよこであるとか、名前や意味があるものであれば、パパからの密かなメッセージがこめられているとも思えるのです。
ですが、黄色いものはなんだかまったくわからない。
ただ黄色くてあたしの掌におさまるのです。
黄色いものはあたしが宇宙人であることの象徴であり、あたしが世界に触れあう前の穏やかな生活の象徴でもあります。
なにか迷ってしまったとき、それを握り締めていると〈恒常性〉みたいなものが生まれる気がします。
あたしはあたしで、あたし以外の何物でもない。
宇宙人であるとか地球人であるとか以前に、あたしである、というように。
あたしがあまりに黄色いものに依存するので、パパは心配そうに「黄色いものは、いつか手放さなければならない」と言いました。
「黄色いものは、青いものに出会ったら、手放さなければいけない。しかし……」
黄色いものはもちろんのこと、それ以外の黄色いものも(それは、意味が存在する、菜の花、おしっこ、怪しい空模様など)あたしのこれまでを、形作った輪郭のように思えます。
〈イエロー〉はたしかに不快な場所ではあるのですが、その名前のおかげで、あたしの延長にあるものだと思えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます