カヨの遺体の手に、サトシの煙草を無理やり握らせる。

 彼女のすぐ下には、ミナとかいう女の遺体が埋まっていた。サトシとタクヤ、スミエが捕まれば、ミナの遺体につながるのは時間の問題である。そんな場所に、カヨの遺体があれば、警察は彼らがカヨも一緒に殺したものと考えるだろう。それが故に、カヨをここに埋めた。煙草は、いわゆる保険のようなものだ。


 数日前。カヨが思いつめた表情をしながらも、夜中に外出した。この数日間、光熱費をストップさせ、貯金を使い切る程豪快な金遣いを見せていた彼女。これは何かある、そう踏んだ私はその日、仕事を休み、彼女を一日中監視していた。

 彼女の車の数台後ろをついていく。奥多摩の道の駅の前に車を停止させ、盗聴器から聞こえる音に耳をすませると、複数人の男女がいることに気がついた。

 そんな彼らとカヨがここにいる目的は。


 ——どうせ死ぬのよ。なに、挨拶なんて。


 若い女の台詞から、私はその集まりが、先日カヨの家で見た人生やりなおしっ子サイトによるものだろうと理解した。

 それからカヨは彼らの車に乗り、別の場所へと移動し始めた。見失わないよう、私も慌てて彼らを追う。

 そうして辿り着いたのが、あの廃校だった。

 自殺のフリをする。それならそれで良い。しかし…その後カヨとサトシが、私の犯した罪について言及し始めたその時、居ても立っても居られなくなった。


 ——彼女。あなたのお母様の死に、関係していると思いますよ。


 馬鹿な。行きの車内でカヨが話した内容は、私も聞いていた。たったあれだけの会話で、勘付いたなんて。

 その後も何やら話は続きそうだったが、どうやら、スマートフォンを落としたりでもしたのだろうか。盗聴器が壊れたようで、以降は何も聞こえなかった。しかし、私にとって好ましくない方向へと話が進んでいることは確かだった。

 そうなれば、彼女は警察に事実を話すだろう。

 その後私は逮捕され、人殺しとしてお茶の間に顔を晒す。嫌だった。まだ二十代。また仕事も遊びも満喫したいし、華の二十代を檻の中で過ごすなど、ましてや前科がつくなんて、それこそ死んだ方がましだった。


 捕まりたくない。

 だから、優先してしまった。

 彼女の人生よりも、自分の人生を。

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