3
——雨の音で、目が覚めた。
今朝、目が覚めて最初に実感したことは、自分がこうして息をしているということだった。
寝起きの渇いた呼吸、働かない頭。薄汚い天井に、光の入らない部屋。生きているとは、こういうことなのだ。それまで気に障っていた、どことなくよどんだ空気でさえもまた、それを感じることができて良かったと思えた程である。
しかし次の瞬間、自分が昨夜何をしたのかを思い出して飛び起きた。
何度か瞬きを繰り返す。そうしてそのまま、テレビを点けた。ニュース番組を数十分見る。次に別のニュース番組。そのまた次へ。テレビを消したその後は、スマートフォンのトップニュースを開く。ジャンルは社会性のあるもの。じっくりと、最新のものから順々に確認していく。
無い。昨夜のことは、やはりどのニュースでも取り上げられていない。そこで漸く、ふぅと安堵の溜息をついた。
あれから、夜が明けたのか。昨夜あの場所に自分がいたことを思い出して、ぼんやりと天井を眺める。
あんなことをしたというのに、こうして何事もなくそのまま自宅に帰ってくることができた。しかし、心は晴れやかとは言い難かった。
スミエを見送った後、私は警察に電話をして、最後の準備に取り掛かった。
駅に到着したところで、先程電話の際に使った、プリペイド式のスマートフォンのメモリを抜き取り、本体機器は下水の側溝に流した。そうしてから、電車に乗って隣の駅へ。駅の駐車場に停めておいた自分の軽自動車に乗り込み、例の場所へと向かう。
その場所は、あの廃校から一時間以上。奥多摩の中でも更に奥へ。廃屋だらけの道を通ったその先にあった。
車を降りる。きょろきょろと辺りを見回すが、人の気配はしない。二日前から今日で三日連続、そう。この辺りに、この時間まで起きている人家は存在しないのだろう。
ただ、万が一ということもある。とにかく急げ。バッグを持ち、少し歩くと、鬱蒼とした木々の間に少しだけ、開けた場所が現れた。
プリペイド式ではない、もとから所有しているスマートフォンで辺りを照らす。その場所のみ、土の場所が明るい茶色。草や石は無い。
数十分は掘っただろうか。ようやくそれが現れ始めた。シャベルをそばに起き、手で土を払う。
それは、女の死体だった。
まだ真新しい。死んだ魚の腹のように青白い顔。血が通わないまま一日が経過したためだろうか。指先は皺々になり、それが死人であることをより強く認識させた。
私は彼女がまだここにいることに安堵し、彼女の頬に人差し指を這わせた。
「…カヨ」
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