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『はじめまして。サイトに登録をしました、カヨです。よろしくお願いします』
『ご登録ありがとうございます。サクライと申します。このサイトの管理人でございます。よろしくお願いします』
サイトへの参加方法は、ソーシャルゲームや宿泊予約サイトなどと同様、始めに会員登録が必要である。
住所、ニックネーム、年齢、連絡先となるメールアドレス、簡単な自殺したい理由…エトセトラ。それらを入力した後のやりとりは、全てサイト上のメッセージツールで行うスタンスだった。
自殺をするためには、登録後まず、サクライという管理人に話をつけなければならなかった。匿名故に彼(彼女なのだろうか)の人物像はイメージできなかったが、どうせ私は死ぬつもりである。死ぬことができればそれで良く、相手がどんな輩だろうが気にならなかった。
『カヨさんは、人生をやりなおす時期を、いつ頃と考えていますか』
返信は早かった。送信すると一時間もしないうちに返信がある。
『なるべく早ければと考えています。明日とかでも良いです』
人生をやりなおす、か。
落ち着かず、キーボードのF5キーを押して、ブラウザのページを何度も更新する。返信が来たのは、十分後のことだ。
『該当するグループがあるかどうか、確認してみます。また、連絡します』
「グループ?」
画面を睨みつつ、サクライからのメールの内容を一人呟き、そして仮説を立てた。もしかすると、「人生やりなおしっ子サイト」内には、いくつものグループが存在するのかもしれない。登録者も、私だけではないはず。複数人ともなると、自分だけの都合で、自殺する日程や場所を決めることはできない。例えば、この日の自殺はAグループ、次の日はBグループ、その次の日はCグループ…と、それぞれ異なるに違いない。
正直、グループなんでどれであろうが、それをどこで行おうが——流石に近場である方が楽で良いが——、なんでも良かった。とにかくもう、早く死にたい。死にたいのだ。それこそ、さっき自分で言った明日でも良い。それこそが自分の本心なのだと、改めて実感する。
数十分後、サクライから返信が来た。件名は『申し訳ありません』。参加を断られるものかと一瞬焦るも、本文を読むとそれが
『明日、明後日に実行するグループはございませんでした。ただ』
「ただ?」少々落胆するも、マウスを動かしていく。
『二週間後に自殺するグループがございます。カヨさんがもしよろしければ、そのグループでどうでしょうか?』
二週間後というと、九月二十四日。仕方ないが、それで良い。どうせ一人で死ぬ勇気はない。それに、それまでの時間で、身辺整理もできそうだ。
『大丈夫です、待てます。そのグループでお願いできますか』
『わかりました。それでは、グループのリーダーに連絡を入れますので、少しお待ちください』
グループにはリーダーなる、取りまとめの人間がいるのか。自殺するというのになんだかおかしな話だが、気にせず「了解しました」と返信してから数時間は経過したか。サクライから再度、連絡が入った。
『遅くなりました。問題ないそうですよ。良かったですね。場所と時間などは、登録された時のメールアドレスに、リーダーからの連絡が入ると思います。もう少しだけ、お待ちくださいませ』
サクライのメッセージを読みつつ、私は体の力が抜けるのを感じた。思っていた以上に、緊張で体が固くなっていたようだ。
安堵しつつも、これ程とんとん拍子に進むと少し、怖いものもあった。サクライも、サクライが連絡を取ったというリーダーも、何者なのかは分からない。そもそもこのサイトが本当に自殺をするのかさえも分からない。不明な点が多い中で、こうして話ばかり進んでいく。流れの速い川に流されていくような、自分のことではないような
でも、その時の私は、そういった若干の不安以上に、嬉しさを感じていたのだ。誰にも話せない、受け入れられない、自殺をするという意志。私と同じ意志を持つ仲間がいることと、そんな仲間達と共に逝けるかもしれないということ。それらはある意味、自殺と向き合う勇気を自分に与え、警戒心を亡き者にしたのである。
とにもかくにも、それが今から二週間前のこと。そして昨日。サクライに案内されたグループに加わり、私は実際に自殺を決行した…のだが。
駄目だった。
駄目だったのだ。
私には、できなかったのだ。
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