年間で数万人規模の国民が自殺で命を絶つ国、日本。その数に留まらず、そういったことを考え、実行したいと考える者は数多く存在する。私も、そのうちの一人だった。

 ——カヨさん、この仕事辞めたら?

 三ヶ月前。上司のカワノからのパワハラを理由に、勤めていた会社を退職した私には、今後の見通しが立っていなかった。そんな折に唯一の身内だった母親が事故で死に、双子の姉にも愛想を尽かされ、一寸前までもが闇という状態だった。

 死んで楽になりたい。疲れ果てた私は、いつしか、そう思うようになっていた。

 しかし。

 私は、それができずにいた。

 死ぬというのは、口で言い放つよりもはるかにハードルが高かったのだ。いくつか試したが、実行する一歩手前でどうしても怖気付いてしまう。首を吊ろうにも、首にかけたところで体が石のように動かなくなる。手首を切ろうにも、剃刀が肌に触れるだけで全身鳥肌が立ち、吐き気をもよおす。死という身の毛もよだつ恐怖が、全身を襲うのだ。

 「明日は必ず」と、何度もそう思った。そうして何もできないたびに、自分で自分を卑下する日々。しかし生きるにも、貯金は無くなっていく。

 内心焦っていた、ある日。九月十日…二週間前のことだったか。SNSの裏アカウントに、フォロワー以外のアカウントから、ダイレクトメッセージが届いた。

 メッセージタイトルは『カヨさんへ』。


 アクセスしてみてください。

 あなたの求めるものだと思います。


 本文はそれだけ。それだけと、URLが一つ貼られていた。気味が悪かったが、その時の私は流されるままにアクセスした。すると、パソコンのデスクトップ、ブラウザの全面が黒色に変わる。

 少し遅れて、中央に『人生やりなおしっ子サイト』と、白ゴシック体の横文字が表示された。

 胡散うさん臭い、子どもが考えたような名前。タイトルの下には、少しだけ小さくなったサイズで、『私達と共に、人生をやり直しませんか?』と副題たる文章と、さらに小さく、四行程書かれている。


 ———

 仕事、友達、恋愛、お金…

 今の人生をやり直しましょう。

 一人じゃなく、皆で。怖くはありません。

 幸せを掴み取りたい方のみ、入場ください。

 ———

 

 怪しさしかないが、初見の様子では、無料のホームページ作成サイトで作ったような、ちゃちなものではなさそうだった。

 私はサイト内を細かく見ていく。どうやらこのサイト、自殺をしたくてもできない者たちが集い、皆でそれを行う…そのために作られたようだ。つまり、今の私に必要なものだった。

 新手の詐欺か、それに類するものの可能性もあった。しかし、私はタイトル副題の言葉が強く印象に残った。


 私達と共に——。


 これを使えば、私でも死ぬことができるのだろうか。

 この先、一人で自らの命を捨てる勇気なんて、出てくるとは思えない。それが分かっていたからこそ、私は最終的に、そのサイトを使うことを決めた。

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