血のあかすりタオル

差掛篤

第1話

とある小さなナイロン工場の主人が射殺された。


この主人は病的な嗜虐癖を持っていて、犠牲者に対し、あまりにも苛烈かつ鋭利な「あかすりタオル」を用いて虐待するという変態行為に及んでいた。


ある時、逃げ延びた被害者の証言と、身体に残されたナイロンのクズから主人の悪行に警察がたどり着いた。


主人は工場に立て籠もり、工具や刃物、ナイロンを使った紐状の罠などを駆使したが、ついにけん銃を使用した警官に引導を渡されたのだ。


主人が死に、しばらくはその負債整理も兼ねて残された家族が「あかすりタオル」を売っていた。


だが、その「あかすりタオル」のせいで妙な噂が立ち始めたのだった。



その「あかすりタオル」を使った者は、皆大怪我して病院に運ばれ、ついには精神病棟へと入るという事案が続出した。


そのうち、辛うじでコミュニケーションの取れる患者に医師が質問をした所、奇妙な話をし始めた。


患者が運ばれる前、件の「あかすりタオル」で身体を洗っていると、どうにも身体がむず痒く、垢やぬめりが取れてない気がする。


鏡で見ると、肌が赤く腫れるほどに「あかすり」している状態である。

だが、手で触れると垢やぬめりが自分の身体を厚く覆っているように感じるのだという。


そうなると、患者は一心不乱に身体を擦り始める。

力を込め、鋭いアカスリを幾度となく擦り付ける。

だが、本人には汚れが取れたように思えない。


そのうち皮膚は裂け、出血する。しかしやめない。まだ汚いと患者は思ってしまうのだ。

さらにはより体内の深部へ入っていく。それでも患者はやめようとしない。


激しい怪我を負い、精神を病んでしまうほどに「アカスリ」に興じてしまうのだった。


「アカスリ」が中断されるのは、大怪我や出血で気を失ったときである。


医師は一種の集団ヒステリーかと論じた。


だが、一連の様子を新聞で見ていた市井の人々は「主人の呪いだ」と口にした。


結局主人のアカスリは誰も使わなくなり、一家離散。一族ともども悲惨な末路となったそうである。


【おわり】

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血のあかすりタオル 差掛篤 @sasikake

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