第7話 立ちんぼ増加でも買春増加は食い止めなければ

 ゴムの木詐欺で騙された内山信〇曰く、詐欺師は男性同志でもまず金銭の話は一切しない。

 銀座のクラブなどで知り合った小金持ちと親友になり

「私はこれで一儲けしました。あなたも如何ですか」と持ち掛けてくる。

 親友という関係を壊したくないばかりに、相手の言いなりになったところで、ドロンするというのが通例のパターンである。


「そこで女が見ると、その木(リンゴorざくろorいちじく)は実に魅力的で美しかった。そのため、女はその実を自分で取って食べ、一緒にいた夫にも与えたので、夫も食べてしまった。

 確かに彼らは今まで見えなかったものが見えるようになった。 

 しかし、それは自分たちが裸であることがわかっただけであった。

 そこで、彼らは恥ずかしさの余り、いちじくの葉をつなぎ合わせて、腰の周りを覆い隠した」(創世記3:6-7現代訳聖書)


 やはり人は、自分の欲望に魅かれて幻をみるのだろうか?

 破滅に至る道を知らず知らずのように、走っていくのだろうか。

 まるで闇金の借金のように、雪だるま式にふくらんでいくのも知らないで。


 騙した方と騙された方とどちらが孤独かというと、騙した方が孤独の檻に陥る。

 自分を信用し、まるで母親の胸にすがる子供のような無邪気な気持ちで接してくれた相手を裏切ってしまった孤独は、金銭などには到底変えられないほどの、冷たい孤独の檻に入るしかない。


 話を元にもどそう。

 僕はゆあさんに言った。

「ホスト君というのは、色恋じゃなくてあくまで営業。

 だからいくらホスト君につぎ込んでも、スマホ代がなくなったので、一部を返してほしいなんて言っちゃいけない。

 脅迫として訴えられるのがオチだよ」

 ゆあさんは、目を丸くして聞き入っていた。


 ゆあさんは、急に涙ぐみ始めた。

「実は私、二度ほど立ちんぼをしたことがあったの。

 ほら、世間を騒がしている売春のことだけど、その当時はその意味さえわからず、担当ホストに、あの公園にはおじぎ草といって、夜でも葉が開く植物がある。

 その葉が開く現場をみると、幸運が訪れるというよ。

 公園で立っているだけで、新しいチャンスを得られるなどとおだてられ、その通りにしたの」

 内田親子は、ポカンと口を開けて聞いていた。

 そうかあ、つい半年前までは立ちんぼという言葉さえなかったものなあ。

 まあ外国では、ストリートガールと呼ぶそうだが。

「一度、公園に立っているときは私をジロジロ凝視する人がいただけで、缶コーヒーを奢ってやろうかという中年男性がいたが、私はお断りしたわ」

 まあ、これが通常のパターンだろう。

「しかし、公園に立つ二十代くらいの女性が増加するに従って交営などと呼ばれ、いかにも売春目的というふうに変わっていったわ」

 まるでカンボジアの売春村である。

 ああ、日本はどう変わっていくのだろうか。


 内田おばさんが納得したように言った。

「そういえば私もホテル街を歩いていると、三万円でどう?なんて言われたことがあったわ。相手は浮浪者風だったけどね」

 ゆあさんは話を続けた。

「あれは、一度相手に応じてしまうとスマホで写真を撮られて、もう逃れられなくなるのよ。女性のなかには、缶ジュースに睡眠薬をいれられ、車で連れ去られ、目が覚めたときはアパートの一室だったというパターンもあるみたいね」

 内田おばさん曰く

「そりゃそうだろう。いくら金のためとはいえ、ポジティブに売春という手段なんて選ばないよ。肉体労働でもした方が、肉体はしんどいけど精神は心地いいよ。

 ねえ、清竹君」

 その通りですと言おうとすると、またゆあさんの口からはショッキングな話が飛び出した。

「一度売春をしてしまうと、罪の意識が芽生えるというわ。

 だって世の中の人は、体を張ってあるいは命を削って働いているのに、自分は公序良俗に反することをして金を稼いでるものね。

 でも、売春って一度でも体験すると辞められなくなってしまう。

 まさに沈んでしまうのよね。気がついたときは、梅毒のできものが体中にできることもあるわ」

 そりゃそうだろう。男同士でさえも性被害が忘れられないのに、女性なら尚更だろう。

 こうやって女性は底なし沼のように、堕ちていくのだろうか。

 女囚は全員が男絡みというが、ホストの疑似恋愛によって堕とされているに違いない。

 ホストである佳紀はゆあさんの目を見つめていった。

「もう二度と、公園に立ってはいけないよ。下手すると力づくで車で連れていかれたり、ドラッグを打たれるという危険性もあるよ。

 もうこれを機会に、担当ホストとは会わないこと。といっても、多分また電話がかかってくる筈だけどね。

 出ない方がいいよ。多分そのホストは、借金を抱えてる筈だよ。

 ゆあさんを立ちんぼにして、借金返済に利用としているということが目に見えてるよ。早く切った方が身のためだよ。

 そうしないと第二、第三の立ちんぼが増え、それに比例して買春する男性が増加するだけだよ。そのうち、お互いが梅毒にかかってしまう」

 僕は思わずため息をついた。

 まるで戦争中みたいだなと思った。


「それにしても、清竹君は癒し系だね。なんとなく心の苦しみを相談できそうな気がするよ」

 僕は半分褒められたようで、嬉しかった。

 二十歳過ぎてから、初対面の人から悩みの相談を受けることが多くなった。

 正確にいうと悩みというよりも、過去の愚痴、現在の苦しみであるが。

 もちろん僕は何かをしてあげることも、多額の寄付をすることさえもできない。

 しかし、悩みを聞いてもらえたことで、自分が認められたような気がするんだろう。ということは、僕は人の心の葛藤を勝利に導いているのだろうか。


 僕はなぜ、初対面の若者から悩みの相談を受けるのだろう?!

 女性はホストと疑似恋愛を楽しみにいくために通ううちに、疑似ではなくなってしまうという。

 もちろん僕の場合は疑似恋愛の要素はまったくなく、あくまでも心の負担を解消するのが目的である。といっても、僕はカウンセラーの看板を掲げているわけではないのに、まるで風が吹くように僕の元に悩みの相談が降りかかってくる。

 それは僕のなかにも、心の葛藤があったからである。

 父親が元反社時代、僕にはいじめられた過去があった。

 でもそのことを、両親には言えなかった。

 小学校に入学する前、僕が近所の子と遊ぼうとすると、子供たちは皆、蜘蛛の子を散らすようにパーッと去って行く。

 多分、親から遊んではならないと言われていたのだろう。

 入学してからは「背中に刺青入ってるんじゃないか」と言われたこともあった。

 幸い僕の父親は、有名反社ではなかったが、有名反社の子供はもっとひどいいじめを体験していたらしい。

 ある有名反社の伝説の大親分 田岡一〇の長女ゆき氏などは小学校時代、暴力団抗争などで新聞沙汰になった翌日は

「田岡としゃべった奴は村八分にする」などというのがあったという。

 小学校高学年になると見るに見かねた担任が、クラス全員を苗字ではなく名前で呼び、田岡の長女に園芸やうさぎの飼育をさせたという。

「ゆきのおかげで、ひまわりが満開に咲いたよ」

「ゆきが育てたうさぎ、こんなに大きくなったよ」

 そのような担任のおかげで、友達は少なくてもぐれずにすんだという。


 僕の場合は、幸いにも中学二年のときに元反社の父親が牧師になったことが、マスメディアに取り上げられた。

 僕は小学校の時、いじめられていたことを母親にも言えずにいた。

 しかし、マスメディアに放映された今 またいじめられるのではないか。学校に行くのが嫌だと母親に泣いてすがった。

 すると母親曰く「イエス様がいるから大丈夫。イエス様は守って下さるわ。

さあ、安心して学校に行きなさい」

 翌日、学校に行くといじめは存在せず、皆そのことに触れることもなかった。

 野次馬根性がなかったのは、神の守りがあったからであろう。


 男性が水商売の女性に狂うと、金銭がらみもあり、ストーカーや殺人にまで発展する。やはり男性は、極めて攻撃的である。

 しかし、反対に女性がホストに狂うと、借金を返済するために売春に走るという、極めてネガティブな受け身のスタンスとなってしまう。


 ふと我に返り店のテレビに目をやると、画面に見覚えのある顔が飛び込んできた。

 なんと「ネクスト ドア」の伴 浩氏である。

 伴氏は、昔は反社に車ごと崖から突き落とされるという、壮絶な過去を体験しているだけに、やはり常人とはちがった威圧感のある風貌である。

 なんと伴氏は、ホスト狂いの親御さんから深刻な相談を受け、今度はホスト問題に狼煙をあげるという。

 

 


 

 



 


 





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