第16話 第四部:雪のうさぎ

ケイ先輩のお下がりのブカブカなウェアを着てゲレンデに降り立った。小柄な僕には大きなウェアにスキー用の杖、街中を歩くおじいちゃんのようであった。

それも仕方ない。初めてなのだ。スキーが。歩き方もままならない、少し滑ると怖くて転ぶ、初心者コースで3人に笑われれるくらいであった。

(今度のサークルでスマッシュ食らわせてやる)


ケイ先輩は小さい頃からやっていたのだろう。スノーボードを巧みに操る。そして運動神経抜群なさっちゃんも小さい頃少しやったことあるだけとか言っていたくせになかなかケイ先輩についていく。

(愛の力か?)


「初心者なんだから両足が動くほうがいいです!」

「そりゃそうだけど俺はボードしかやったことないし」

「うちもケイ先輩と一緒がいいからボード」


ケイ先輩もさっちゃんも自分が楽しみたいのだ、仕方ない。


しかしあやかさんは違った。これはあくまで推測であるが、3人ボードだと初心者の僕がスキーを一人で上達しなければならないと思ったのだろう。


「じゃあうちはスキーにしようかな、小さい頃両方やったことあるし」


そういうことでケイ先輩とさっちゃんは中級者コースへと登っていった。


「板をハの字にすればブレーキだから」

「はぁ?」


盛大にずっこけた。


「だから、こう!止まるでしょ」

「ほう、止まった!」

「あとはずっと直線で行くと加速し続けるから斜めにジグザグ!」

「どう曲がんのーーー」


またまたずっこけた。


「もっとさ、早く言ってよ」

「だってカネキがどんどん行くんだもん」

「イロハのイも知らないすもん」

「ハの字も知らなかったもんね」

「うまい!」


なんとか、ちょい怖コーチとスキーの難しさと格闘しながら初心者コースの上から下まで数回のずっこけで済むようになってきた。


「もう身体中痛いです、ハウス戻りましょ」

「その前に下で雪だるま作ってこ」

「いいですね」


遊戯エリアの端で僕らは雪を固めて遊んで残りの二人を待つことにした。雪だるまなど神奈川にいたら数年に一回しか作らないため楽しみであった。


「あやかさんの雪だるまいびつじゃない?」

「だるまじゃない、うさぎ」

「なんで?」

「うちの迷信で、雪のうさぎ作ると明日やることがうまくいくの」

「変なの、じゃあ俺も作ろ」


僕のはダルマを作る途中の大きい丸に、小さな雪玉二つを耳に見立ててつけたタヌキのようになった。

対するあやかさんのうさぎは楕円形の雪玉を細い枝で削っていき、耳がたった綺麗なうさぎであった。


(そういえば敬語じゃないな)

真剣に彫刻をしているあやかさんは無邪気な子供みたいだった。

それが嬉しかった。

半日も僕の練習に付き合ってくれたのだ。きっと退屈だっただろうし、僕は気負いをしていた。


「できた!」


(かわいいじゃん、、、)


うさぎではなくあやかさんの満面の笑みにそう思った。





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