第15話 第四部:梅の蕾

いつの間にか春休みを迎えていた。といっても大学の春休みはたいてい2月からであり、ほとんど冬休みである。


大学二年の秋学期はバイトと勉強を両立して多くの単位をとった。去年の7月、春学期末のテストは沖縄の祖父母のこともあり、4つの授業の単位を落としてしまったため取らざるを得なかったのだが。


そしてこの時期になると大学生はこぞって北の方へと旅に出る。スキーやスノーボードをしに行くのだ。例に漏れず僕も行くことにした。

だが問題はメンバーである。

もえかの友達のさっちゃん、同じサークルの一個上の先輩のあやかさん、そして僕の心底嫌いな、そしてもえかに手を出した上でフった、しかしおかげでもえかと近づけたがなんと今はさっちゃんの彼氏となったケイ先輩である。


なぜこんなメンツになったのかというと、まずはケイ先輩とさっちゃんが付き合っていて、しかしまだ付き合ったばかりでもう一人ずつ誘うとなり、さっちゃんが僕を、ケイ先輩があやかさんを誘ったそうだ。ケイ先輩もあやかさんも同じ長野県の出身らしく、今回の目的地と同じだからあやか先輩を誘ったそうだ。


あやかさんはあまりサークル活動には参加していなかった。という僕ももえかがドイツに行ってしまってからは月一回程度しか参加していなかったため、顔は知っている程度で話したこともあるかないか覚えていない。


嫌いな先輩、仲はいいけど今は先輩に夢中な友達、ほとんど面識のない女の先輩と四時間以上も車に閉じ込められるのだ。レンタカーで四駆の5人乗りではあるが、座る座席はカップルが隣り合うことが当たり前。

不幸中の幸いとして、出発から二時間程度は僕が運転であったので、無駄なことは考えずに済んだ。


朝の六時に出発して二時間ちょい走り、途中のPAで休憩を挟んだ。まだ埼玉か山梨か群馬かわからない周りには山だらけの場所で二月であるため寒い。そのため特に用がない僕はトイレだけ済ましてさっさと車内に戻ってきた。


「はい、これ」


そういってコンビニのコーヒーを差し出したのはあやかさんだった。朝からずっと運転だったためとても嬉しかった。


「甘いの苦手なんでしょ、ブラックだから」

「ありがとうございます、そんなこと運転中話しましたっけ」

「いや、さっきさっちゃんから聞いた」


率直に”大人”だなと思った。あまり感情を表には出さない、気が回る、そして何より透き通るような顔立ちに綺麗なロングヘアー。

これぞ都内のOLみたいなイメージを抱いた。


PAからはケイ先輩の運転に変わり、僕とあやかさんは後部座席に移った。そこでは先輩としての気遣いか、趣味や実家の話、好きな映画の話などをして思いの外退屈に感じず目的地の近くまできた。

目的地はまずケイ先輩の実家であった。ボードを取ってからケイ先輩の実家のより大きな車を借り、宿泊するコテージで荷物を置いてからゲレンデに行く予定であった。


さっちゃんはケイ先輩と一緒に実家で必要なものを探していたようだ。僕とあやかさんは荷物をレンタカーからケイ先輩の実家の車へと移し終わり待っていた。


「そういえばもえかちゃんとはどうなったの」


僕は特にはとしか答えるしかなかった。距離があまりにも遠すぎて何も起こらないのだ。


ケイ先輩の実家には一輪だけ咲いていた梅の木が植えてあった。その花は白でも紅でもなかった。

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